武器と、カード


  *


 アメリアの開始の声が響き渡ると同時に、スクリーンの映像が切り替わる。黒い画面の中に、砂時計とそして、十というカウントの文字が浮かび上がった。


「……あの砂時計がどのぐらいで落ちるのかは分からないが、悠長にしている暇は無さそうだな」


 シトリーが溜息をつき、箱の中を眺めた。皆の視線も自然とそちらに集まる。


 金属製の箱の中には何かが八割程の高さまで詰められ、それを覆うように敷かれた柔らかそうな布の上に五丁の魔銃が並べられている。意を決したようにシトリーが手を伸ばし、布ごと魔銃を持ち上げそのまま床に置いた。


「……中には何も無いのかな」


 怖々と身を乗り出し、ローゼズが箱の中に残る詰め物を突つく。どうやら綿の塊のようだ。危険が無いと判断したのか、アメジスタンも手を伸ばして箱の中をあらためた。


「何も無いっぽいな。綿ばっかり、ただの詰め物ってこった」


「じゃあ箱には何も役に立ちそうな何かは無いんだ」


「そだな。うーん、なんかヒントとかあるかと思ったのに」


 念の為と蓋を観察したクリスタリオに、残念そうにアメジスタンが首を振った。その遣り取りを聞き、モリオンが首を傾げる。


「……ヒント、だと?」


 その言葉に、箱を離れ再び魔銃の傍に座り込んだアメジスタンが鼻を鳴らした。


「だってこれはゲームなんだろ。ゲームだってんなら五人全員生きてクリア出来る方法があるんじゃないかって。だったら何か、クリアする為のヒントとか、そういうのがどっかにあってもおかしくはないっしょ」


 なるほど、と横でローゼズが感心したように呟く。一方でシトリーは床の上に並べた魔銃を睨み付けていた。


「しかし、これは初めて見る武器だ。魔道具、魔方式短筒と言ったか。よもやこんな物が開発されていたとはな。これが大量に生産されれば、国同士のパワーバランスが覆りかねない代物だぞ」


 シトリーの言葉につられ、クリスタリオも魔銃に視線を落とした。その五つの武器は薄い光を反射し、五人を嘲笑うかのようにギラギラと輝いている。


「確か、アメリアさんのアメーディン公爵領は良質な鉄鉱が昔から採取出来る鉱床を有していて、鍜治が盛んで武器の生産量は王国随一なのだとか。同時にアメーディン公爵家は魔術に長けた人物が多い家系でもあると聞くよ」


「つまりなにか、アメーディン公爵家が本気で魔法を組み込んだ武器、この魔銃みたいなのの開発に本腰入れ始めてるって訳か? キナ臭い話だよな」


 クリスタリオの台詞を引き取り、アメジスタンが苦い顔をする。隣ではシトリーも眉間に皺を寄せ、魔銃の一丁を手に取り様々な角度から細部を確認していた。


「しかし今、そんな憶測を巡らせていても解決には至らないだろう。短くはないとはいえ、時間制限も設けられている。そろそろゲームに取り掛かるべきかな」


 それなら、とシトリーの意見にローゼズが声を上げた。


「誰がどの魔銃を使うか決めた方がいいと思わない? どれが何発目に弾が入ってるかなんて分からないけれど、一応当たれば死ぬような物なんだし、適当ってのは嫌でしょ」


「でも、どうやって決める?」


「それなら丁度いい物がある。これをくじ代わりにすればいい」


 クリスタリオの疑問に、モリオンがフロックコートのポケットを探り何かを取り出した。


 それはカードゲームに用いられる、数字の書かれたカードであった。歪みも反りも汚れも無く、精緻な印刷の施された一級品だ。ナイフなどの武器類は全て取り上げられていたが、それはただの遊び道具と見做され没収されなかったようだ。


「自分の領地は製紙業が盛んで、印刷を手掛ける業者も多く誘致している。これも特産品の一つだ」


 語りながらモリオンはカードを選り分け、一から五までの数字が書かれたカードを一揃い差し出した。受け取ったクリスタリオは並べられた魔銃の傍に、左から順に一から五のカードを置いてゆく。


「なーるほど、それでこれからそっちのカードを皆で引いて、当たった数字の魔銃を使うって訳だ」


 アメジスタンが得心したように手を打ち、モリオンが頷く。そして手早く五枚のカードを伏せたままシャッフルすると、モリオンは皆の前にカードを突き出した。


「よく混ぜてある。引くといい、自分は残ったカードだ」


 四人はちらとお互いの顔を見遣り、そしてそれぞれに手を伸ばした。


「俺はこれだ」


「じゃあ僕はこれ」


「これにしようかな」


「ではこちらを」


 それぞれの手にカードが渡る。そして一斉に、五人はカードを表に返し数字を見た。その数字自体に意味は無い。五人は魔銃に手を伸ばし、その冷たく重い武器を握る。


 モリオンはカードを回収するとポケットに仕舞い、そして皆と同じように手の中の魔銃を見詰めた。ゴクリと、誰かが喉を鳴らす音がする。


 ちらりとクリスタリオはスクリーンの砂時計を見上げた。砂は三割程度落ちたぐらいだろうか。時間にまだ余裕はあるとは言え、それでもゆっくりしている暇は無いようだ。


「よし、やるか」


 勢いを付けてアメジスタンが立ち上がり、皆もそれに続いた。こういう時にアメジスタンのフットワークの軽さは救いになる、とクリスタリオは心の中で賞賛する。


「皆、同時にいくぞ」


 シトリーが自らの魔銃を自分のこめかみに押し当てた。恐怖を押し殺し、四人もそれに倣う。ローゼズの額から一筋汗が流れた。長引けば長引く程に恐怖が増すのを危惧してか、アメジスタンが口を開く。


「じゃあ三、二、一、ゼロでいこう。準備はいいよな? せーの……」


 一斉に五人が魔力を流し、五丁の魔銃がそれぞれに輝く。


「三……、二……、一……」


 ──ゼロ。


 瞬間、──ダンッ、と大きな音が一つ、響いた。


  *

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