第四章:画策と、銃弾
魔銃と、一発
*
『──さて皆様。以上にて、嘘をつくことの危険と、魔銃の威力はご理解頂けたでしょうか』
アメリアの呼び掛けに、クリスタリオ達五人ははっとスクリーンに集中した。どうやら気を失っていたクリスタリオが目覚めたのを見計らい、声を掛けたようだ。
クリスタリオはゆっくりと身を起こす。モリオンが気遣わしげにその身体を支えた。どうやらモリオンが気絶したクリスタリオを介抱してくれていたらしく、身体に痛みは少ない。
「ありがとう、モリオン」
手短にクリスタリオが述べた礼に、気にしなくていい、とモリオンは首を振った。
『それでは改めまして、ゲームを始めると致しましょう』
アメリアが言うと同時、音も無くクリスタリオ達の目の前に箱が出現した。背凭れの無い椅子程の大きさだろうか。重そうな金属製の箱はきっちりと蓋が閉められており、黒銀に輝いて不気味な存在感を放出している。
『さあ、箱をお開け下さい。大丈夫、いきなり爆発したりなどの罠はありませんわ』
冗談のつもりなのだろうか。五人は強張った表情のまま目配せを交わし、そして恐る恐るシトリーが手を伸ばす。──蓋は見た目に反し軽かったようで、音も立てず滑らかに開いた。
皆が首を伸ばしそっと中を覗き込む。
──そこには、五丁の魔銃が整然と並べられていた。
「一人に一つずつ……これで何をやれっての。まさか殺し合いとかじゃ……」
「いや、有り得るな。何せジェダの首を平気で刎ねて見せたのだ、それぐらいは覚悟しておいた方がいい」
震える声でのアメジスタンの呟きに、シトリーが緊張した様子で返す。他の三人も身を震わせ、箱の中の五丁を凝視した。
『ふふ、まさか。そのような無粋な真似をさせるなどと、わたくし思われているのね。……これはゲームと最初に言った筈。これから詳しいルールを説明しましょうか』
凜とした美しいアメリアの声に、五人がびくりと肩を振るわせ、再度スクリーンを凝視する。中ではアメリアが、執事が差し出した銀の盆から一丁の魔銃を手に取るところであった。
『まず、その五丁の銃には弾がそれぞれ一発だけ込められています。この魔銃は五発の弾を発射出来る仕掛けのもの。弾はどの段階で発射されるのかは、外見や重さからは分かりません』
アメリアが魔銃を握る。魔力を注ぎ込み、紅く光る魔銃を天井に向かって構えた。そしてゆっくりと銃爪を引く。
──カチッと音が鳴る。一発目は空。続けて絹の黒手袋に包まれた指が銃爪を絞る。
カチッ。二発目も空。その様子を五人は固唾を飲んで見守る。
カチッ。三発目も空。アメリアの表情は変わらない。──次にアメリアが銃爪を引いた瞬間。
ダンッ! ──どうやら四発目に弾が込められていたようだ。弾丸が勢い良く発射され、鈍い音と共に天井の岩を穿った。五人はびくりと身を固くする。そしてアメリアは何ら動ずる事無く、もう一度銃爪を絞った。
カチッ。説明の通り、五発目には何も装填されてはいなかった。
『今見た通り、この魔銃には四発目に弾が込められていました。このような仕掛けがその五丁にも施されています。但し、何発目に弾丸が込められているのか、探る術はありませんわ』
構えていた腕を下ろし、アメリアが再度差し出された銀盆へと魔銃を置く。
『ここからが重要ですわ。──皆様には、その魔銃で頭を撃って貰います。それは自分の頭でも、他の誰かの頭でも構いません。計十発、頭を撃てばこのゲームはクリアとなりますわ』
五人が揃って、息を飲んだ。
「そ、そんな。それだと、もしかしたら、運悪く当たったら、し、死んで……」
『そうなりますわね。しかし、何人死のうとも、十発撃ち終わるまでこのゲームは終わりませんわ。例外があるとすれば、全員が運悪く死んだ時だけ』
がたがたと震えるローゼズが思わず漏らした呟きに、アメリアは事も無げに答える。その残酷な内容に、ひっと裏返った悲鳴がクリスタリオの喉から響いた。
『誰がどの魔銃を用いても、どの魔銃で何発撃っても構いません。合計で頭を十発。──ルールは理解出来まして?』
恐ろしいルールに五人はただただ頷くしか出来ない。そんな五人の様子を一瞥し、アメリアは執事に向かって扇を振り合図した。直ぐさまディアマンテスが一礼し画面外に消えると、何か大きな物を床に置く音が聞こえる。
そしてスクリーンの中には、大きな砂時計が現れた。傍に立ったディアマンテスが笑みを浮かべる。
『皆様、なかなか決断が付かない事が予想出来ますので、ゲームに期限を設けさせて頂きます。刻限はこの砂時計の砂が落ち切るまで。それまでに十発のノルマをクリア出来ていない場合には、全員にペナルティを課させて頂きます』
砂時計の傍にアメリアが立つ。横に付いた取っ手を優雅に握る。
『それでは皆様、心の準備はよろしくて? ゲーム──』
美麗な装飾の彫られた取っ手をアメリアが回す。砂時計が回転し、上下が入れ替わる。
砂が、落ち始める。
『──スタートです』
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