証しと、実験
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『俺はまず普通にルチルを抱こうとした。──そのまま抱けるならば、それに越した事は無いだろう? もしかしたら、本気で好きになった彼女なら大丈夫じゃないのかって、期待したんだ』
ルチルティアナは華奢で愛らしい、同年代からすれば申し分の無い美少女だ。もし彼女を抱けるというなら、多くの男性が機会を逃すまいとするに違い無い。──しかし、ジェダのその試みは失敗に終わったのだ。
『やはり、俺の身体は反応しなかった。あんなに好きで、愛おしくて、接吻して抱き締めて彼女を独り占めして……そんな風に気持ちは溢れるのに、どうしても俺は、俺の身体はピクリとも動かなかったんだ』
ゆらりと幽鬼のように立つジェダの言葉を、車椅子に身を預けながらルチルティアナはただ黙って聞いていた。自分達の赤裸々な行為をつまびらかにしようとしているジェダを、しかし彼女は止める気は無いようだ。
対照的にクリスタリオは気が気では無かった。それはジェダの罪の告白であると同時、親友と妹との愛の記録でもあったからだ。およそ二人だけの秘密とすべきである恋人同士の営みを聞かされる羞恥は、自分が告白する場合の何倍もにも感じられる。
しかしジェダは何も気に留めず、何も臆する事無く、淡々と思い出を吐露してゆく。
『そこで俺は、意を決して自分の事をルチルに話す事にしたんだ。嫌われるのではないか、蔑まれるのではないかと覚悟したが、ルチルはそんな俺の癖に同情し、理解を示してくれたのだ。なんと素晴らしい女性だろう、と俺は感激し、一層愛しさが膨らんだよ』
──そこから試行錯誤の日々が始まったのだとジェダは語る。
初めは小さな火傷を身体の目立たない部分に作り、ジェダの反応を確認していったのだと言う。ルチルティアナはジェダと同様、火に関する魔法が得意だ。自分で指先の小さな火を太腿に押し当て、小さな火傷が出来るさまをジェダに見て貰ったのだと言う。
ほんの小さな火傷でも、途端にジェダは興奮した。皮膚が水ぶくれを起こしそれが裂けて皮が千切れ、赤くじゅくじゅくとした傷跡になってゆく過程を見て、彼は息を荒げた。
しかしそんな小さな傷では、交合を性行させるには至らなかった。ジェダの興奮が長続きしないのだ。
故に、二人は段々と大きな火傷を作るようになっていった。傷跡が残らぬよう口の堅い治癒師を雇い、わざわざ水魔法で作った水を用意し、事に臨んだ。
そうする事が、ジェダに協力する事が愛の証であるとルチルティアナは思っていたし、またジェダもそれを望んだ。
そうして、二人の歪な愛の形は、──どんどんと奇怪さを増していったのだ。
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