視線と、質問
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『な、何を……!? 心の用意と言われても、さっぱり意味が分からない! 突然こんな所に連れて来られて、俺に何をしろと言うんだ!』
焦るようにジェダが叫ぶ。一見、拉致監禁され首枷と手枷を嵌められた事に対する怒りのように思える態度だ。しかし、彼をよく観察すれば、その挙動不審の原因がそれを示してはいない事は明白だった。
彼は隠そうとしている、不安を、動揺を、痕跡を。しかし──その瞳が雄弁に物語っていた。視線の先、すなわちルチルティアナこそが彼の恐怖の元凶だという事を……。
『おやおや、そんなに同様されてどうされましたジェダ様。なに、ジェダ様はこちらの言う事に素直に従って頂ければ良いのですよ。嘘をついたり、反抗的な態度を取らなければ、痛い思いはしなくて済む筈です』
ディアマンテスが鎖を引きながら、薄笑みでジェダを煽る。どうやら鎖を操作すると首枷が締まる構造になっているようで、ジェダは苦痛に顔を歪め大きく口を開けて喘いだ。
『先に申しておきますが、黙秘、そして忘れた振りなども【虚偽】の範疇になります故、ご注意下さい』
『っ、──く、あ、……っ!』
ジェダの喉が苦悶の呻きを漏らす。執事が頃合いを見て引き絞っていた鎖を緩めると、彼は噎せながら大きく息を吸い込んだ。抵抗の意思は失せたようで、しかし瞳は不安を湛えうろうろと彷徨っている。
『あ、っは、はあ、……げほっ、ごほ、っ、何を、何を言えばいいんだ……? 俺は、何を求められている?』
『それでは、証言して頂きましょうか、ジェダ・ジェイド様。……まずは、貴方様とそこにおられる婚約者様──ルチルティアナ・クリストル様との関係についてです』
ディアマンテスが芝居がかった大きな動作でルチルティアナを指し示すと、その瞬間、ジェダの肩があからさまにビクリと跳ねる。名前を呼ばれたルチルティアナはその銀の瞳をギロリ光らせ、ジェダをゆっくりと視線で射貫いた。彼はその視線から逃れるように、顔を伏せて吐き捨てる。
『証言、……証言だと? 俺と彼女は婚約者だ、それ以上でもそれ以下でも無い。他に何を言えというのだ』
『おやおや、雑な物言いではございませんか? 親が決めた婚約とはいえ、ジェダ様とルチルティアナ様は傍から見ても仲睦まじく、愛し合っておられたと聞き及んでおりますよ』
薄笑みを浮かべたままの執事の指摘に、ジェダは苦い物を噛んだかのように口許を歪めた。そんな彼の様子に、黙って成り行きを見守っていたアメリアが無表情のまま口を開いた。
『──埒が開きませんわね。それではこんな質問は如何かしら。……貴方は、彼女に何をしたのですか?』
『何、……』
『あの日。──ルチルティアナが大火傷を負った日。貴方は彼女に何をしたのです?』
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