妹と、親友
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クリスタリオの凝視するスクリーンに現れた二人──車椅子に座る包帯だらけの人物と、手枷首枷を嵌められ鎖で引かれた男。
それこそ正に、クリスタリオの妹たるルチルティアナ・クリストルと、その妹の婚約者であり自身の親友でもある、侯爵令息ジェダ・ジェイドであった。
「ルチル!? それにジェダ! どうして、何故二人が……!?」
思わず悲痛な叫びを上げたクリスタリオの様子に、他の四人の令息が驚き息を飲む。
「ルチルってもしかしてあれか、クリス、お前の妹なのか? 火事で逃げ遅れて大火傷追ったっていう……包帯で顔がよく見えないけど確かなのか?」
痛ましげに顔を歪めながら、焦げ茶のフロックコートを着た伯爵令息、モリオン・モーリスがクリスタリオに問うた。確かにスクリーンの人物は顔まで包帯が巻かれていて、一見すると性別すらよく分からない有様だ。
「あれはルチルだよ、間違い無い。あの銀の瞳と金の髪……それにあの華奢な身体付き。そもそもボクが妹の事を見間違える筈があるものか」
きっぱりと言い切ると、そうか、とモリオンは申し訳無さげに顔を伏せた。一方で子爵令息のシトリー・シトリンニアが首を傾げる。
「しかしジェダが繋がれているのは何故だ……? 何かやらかしたのか? そんな話は聞いていないが」
シトリーの隣で子爵令息のローゼズ・ロゼクオーツも美貌を歪め優美に眉根を寄せる。アメジスタンも同様に訝しげな表情でスクリーンを見詰めていた。
『皆様、既にお二方が誰なのかお気付きの事とは思いますが──改めて紹介致しましょう。ルチルティアナ・クリストル様と、ジェダ・ジェイド様ですわ』
凍ったままの顔でアメリアが告げる。やはり、と五人は溜息をついた。
それにしても、ジェダが此処へ連れて来られているのはまだしも、何故ルチルティアナの姿があるのか──彼女は火事で大火傷を負い、魔法学院の隣にある治療院に入院している筈ではなかったか。
クリスタリオは妹、ルチルティアナの姿を凝視した。少し息は荒くその身を車椅子の座面に預けてはいるものの、包帯の隙間から覗く銀の瞳は生命に満ち、……いや、むしろ何かに取り憑かれたかのようにギラギラと異様な光を宿していた。
一方で拘束されたジェダは、その垢抜けたご自慢の顔を隠すように、俯き伏し目勝ちに身体を震わせている。肩を竦め身を縮込ませようとするその様子は、自信に溢れた普段とはまるで印象が異なっていた。
ジェダも美しい緑のフロックコートを着ていることから、皆と同様パーティ後に拉致されたのだと、クリスタリオはそんな事を考える。更にジェダを見てはっと驚いたのだが、此処にいる自分以外の四人が、ジェダの友人……否、ジェダの取り巻きである事を思い出したのだ。
それが何を意味するのか、クリスタリオには見当もつかない。しかし何処か薄ら寒いものを感じ、悪い予感にぶるり背を震わせたのだった。
『ルチルティアナ様には、無理を押して治療院からこちらへとお越し頂きました。お身体にも障りますので、出来るだけ早く事を済ませたいと思っておりますわ。ですのでさあ、ジェダ様、出番ですわよ』
執事に引き摺られ、ジェダが画面の中央へと歩みを進める。その顔は酷く蒼白く、唇はわなわなと震えていた。
『ジェダ様には、【嘘をついてはいけない】というルールの大切さを身をもって示して頂こうと思っております。さ、ジェダ様。心の用意は宜しいですか?』
ディアマンテスがその整った顔で薄く笑う。その笑みが酷く悪辣なものに思え、そしてこれから行われるであろう『デモンストレーション』の恐ろしさに想いを馳せ、クリスタリオはぞくりと、寒気に息を飲むのであった。
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