奇策と、臀部
*
「パニエを……? そんなもの、何に使うの?」
ジェッティアの発言に、二人は目をぱちぱちと瞬かせた。余りにも唐突なその言葉の意味を図りかね、揃って首を傾げる。
「何に使うかは直ぐに分かりますよ。──さあさコーラル様、シエル様、お願いですからパニエをお脱ぎ下さいな。パール様のドレスはパニエの無いタイプですし、アンバー様も同様です。わたくしのドレスのパニエは貧相な造りゆえ、お二人が頼りなのですよ」
少し悪戯っぽく微笑むジェッティアに促され、二人は顔を見合わせて渋々スカートに手を突っ込んだ。行為のはしたなさに少し顔を赤らめながらも、固定していた紐を解き、ボタンを外し、苦労しながらパニエを下ろし始める。
──パニエとは、ドレスの中に着用しスカートにボリュームを出す為のものである。以前は竹や革などを組み合わせた鳥籠のような骨組みを仕込んだ物が多かったが、重さと動き辛さが何よりの欠点だった。
今では張りのある生地を重ねギャザーで絞って膨らみを出したものや、或いは鳥の羽毛や綿などを詰めたキルティングを利用したものなどが主流となっていた。どちらも骨組み形式の物に比べれば随分と軽く、また着脱も比較的楽なのだ。
程無くして、二人の脱いだパニエが床の上にそっと置かれた。どちらも張りのある生地とふわり空気を含んだ柔らかい生地を交互に何層も重ねたもので、軽いのにボリュームがしっかりと出せる高級品である。
「それでジェッティア、これを何に使うのか早く教えて頂戴?」
「それは、……こうするのですよ」
コーラルが興味津々といった様子で黒髪の少女を見詰めると、微笑んだジェッティアはパニエを一つ手に取り、いそいそとそれに足を通し始めた。
「えっ!? 何、ジェッティア、何をやっているの!?」
驚いてシエルが声を上げるも、気にせずジェッティアはスカートの中にパニエを重ねていく。
そしてさほど時間を掛けずに、ジェッティアは二人のパニエを自身の着けていた薄いパニエの下に無理矢理穿いてしまった。中から押し広げられたスカート部は今にもはち切れんばかりだ。
「ええっ、ド、ドレスが凄い事になってるわよ! それでそれで? それで何をするつもり?」
勢い付くコーラルに向かって微笑むと、ジェッティアは後ろを向いて床の上にしゃがみ込んだ。四つん這いの姿勢で、二人に向かってお尻を──いや、パニエでパンパンに膨らんだスカートを持ち上げた。
「さあ、それでは鞭でわたくしのこのお尻を叩いて下さいませ! コーラル様でもシエル様でも、どなたが先でも構いませんわ」
ジェッティアの言葉に二人はまたもや目を丸くした。何度も顔を見合わせ、そしてためらいがちに鞭を手に取ると、シエルが心配そうにジェッティアのお尻に語り掛ける。
「い、痛くないかしら? 本当に大丈夫?」
「きっと、母に叱られながらお尻を叩かれたときより痛くない筈ですわ。──それに叩く力が弱いとカウントされないようですので、遠慮なさらず思い切りお願い致します!」
「わ、分かったわ、やってみる……!」
シエルはゴクリと喉を鳴らすと、覚悟を決めて鞭を振りかぶった。──鞭など扱った経験は無かったが、意を決し思い切りお尻目掛けて鞭を振り下ろした。
──パフォン!
あたかもふかふかのクッションを叩いた時のような音が、大きく響いた。
「い、痛く、ない? ジェッティア、大丈夫?」
「──全く痛くありませんわ! それに見て下さい、回数のカウントも無事減っております。さあシエル様、続きをお願い致します……!」
ジェッティアの台詞に勇気付けられ、シエルは続けて十回、鞭を振るった。次いで鞭打つ役目をコーラルに後退し、継続してジェッティアが鞭を受ける。
その様子を呆然と、パールは眺めていた。床に座り込みほろほろと涙を流しながら、己の無力を、愚かさを噛み締めた。
そして静かに呼吸するだけのアンバーを抱き寄せ、その髪をただ、撫で続けるのだった……。
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