犠牲と、罪状
*
『実験からアイデアを得た私は、【疑似子宮】の魔法を安全で効率的な形に改良する事に成功した。子宮を作る位置を調整し、出産用の孔を別に作成する術式を組み込んだのだ。これで家畜の死亡率は大幅に低下し、国の機関で認可を受けてこの魔法は国中の畜産農家で無事使用される運びとなった』
自分達の乗る馬車の馬が、普段口にしている肉が、このような実験の果てに開発された術式を使って生産されたものかも知れないという事実に、王子は吐き気を催した。しかしシルヴィアの手前、醜態を晒す訳にはいかないと、必死で胃の痙攣を抑えて唇を引き結ぶ。
しかしながらアクアの告白はこの程度で止まるものでは無かった。
──アクアの犠牲となった生徒は八人いると、彼は言った。先程の【疑似子宮】の男子生徒はまだ三人目なのだ。
『次の生徒も男子だった。私は彼に【乳房生成】の魔法を施した。これも雄で成功すれば乳の増産が見込める魔法なのだが、研究が行き詰まっていたのだ。結果、その男子生徒の胸の筋肉はズタズタになったが、そのお陰で私は改善点を発見することが出来たのだ……』
それからもアクアは次々と罪を告白していった。
五人目の女生徒は、乳房の数を増やされた。増えた分の乳房は後で切除したものの、乳腺が歪つに広がり肉を引き攣らせ、痛々しい痕が残ったという。
六人目は子宮を増やされた。体内に三つ作られた疑似子宮は内臓を圧迫し、また皮膚や筋肉は急激に膨らむ子宮に無理矢理に引き延ばされた。腹どころか背中まで至る醜い肉割れは何をしても消えず、また圧迫された臓物が骨盤を歪ませ、彼女の下半身を無様な体型へと変貌させてしまった。
七人目は鶏の卵を産めるよう体内に鶏の器官を移植された。一つの家畜から乳も卵も採取出来るならば便利だろう、という考えの元に研究された魔法らしかった。結論から言えば、彼女は一人では何も出来ない身体になってしまった。腐った食品を摂取したかのような酷い嘔吐下痢を発症したのち、段々と手足が動かなくなっていったのだ。何をしても萎えた手足は力を取り戻せず、ついに彼女は寝たきりとなってしまったそうだ。
──そこまでの話を静かに聞いていたアメリアは、無言で頷くと少しだけ瞳を伏せ、そしてゆっくりと目を開いた。その紅い瞳はいつもと同じく凪いではいたが、少しだけ、ほんの少しだけ憂いと哀しみにも似た揺らぎが見えたように、ゴールディには思えた。
『さて、アクア・マリーネ。それでは最後の一人、……アズラ・ライトの件についてお聞かせ願えますか』
アメリアの声が静かに響く。
ああ、とスティールは溜息をついた。アズラ・ライトとは先日、校舎の尖塔から飛び降りて死んだ女生徒の名だった。
彼女の遺体は異様だった。校内で最も高い場所から地面に叩き付けられた所為で身体がバラバラに砕けていたのは当然として、血肉や臓物以外に気味の悪い白く蠢く何かが大量に周囲に飛び散っていたのだ。
それを目にした者達は皆、彼女が特殊な病気に冒されていたか、はたまた奇妙な呪いを掛けられていたのではないかと噂した。
──しかし裏の事情を知る者達は、それらとは異なった見解を持っていた。
つまり、魔法研究の実験台にされたのでは、というものだ。
スティールはアクアのそれまでの妖しい噂を聞き及んでおり、アズラ・ライトの件もアクアが関わっているものと睨んでいた。それで独自に調査を進めていたのだが、どうやらアメリアも同じ事を考え、同じ結論に至ったのだと得心した。
『さあ、──己の罪を述べるのです。偽ることなく、──全てを此処に』
アメリアの美しく澄んだ声は、総てを見守る女神の如く厳かに、響き渡った。
*
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます