誘い誘われ
せめて、飲むなら片付けくらいして帰れ……!
終電間近で、皆が次々と
「ようしもう一軒いくぞ!」
と言ってぞろぞろと 会社を出て行った。どれだけ飲むんだろう……。
残ったのが私と社長だけ。
「やれやれ」
と言いながら、他の人間が食い散らかした後を片づけを始める。
私もそれに続く。
「最後の最後まですみませんね。」
「もう慣れました」
半ば諦めの気持ちで呟くと
「君がいなくなるのは、本当に寂しくなりますね」
「そんなこと言って、私のこと社員としては雇用できないって言ったじゃないですか」
就活の時、周囲がインターン先から次々内定をもらっているうのを見たので、私も社長に直談判したことがあった。まさか、少しの猶予もなく却下と言われるとは思わなかった。その時のことは、
「こんなに頑張ってもこの会社の社員として認めてもらえないのか……!」
と悲しくなり、家のぬいぐるみに八つ当たりしたのでよく覚えている。その証拠に、ぬいぐるみの頭が少し凹んでしまった。
社長は困ったように、
「こんなところよりも活躍できる場所があると思ったから……」
「おかげで、落ち着いたところの事務職として入ることができましたけれども 」
「動物園じゃなく?」
社長が言った動物園とか、暗にこの会社の今のことを指している。
「自覚あるんですね」
「現実は認めるしかないですから」
社長が苦笑いをしたので、私はあえて、今日1番大きな声で笑って見せた。
あっという間に飲み会の場所で使った会議室が綺麗になってしまった。
もうここには来ないのかもしれない……。
離れ難くなってしまった私は、社長が帰り支度を始めたのを見た私は、考えることもせずに
「二次会付き合ってくれませんか?」
と言ってしまった。
時間は、もうすぐ次の日を迎えてしまう。
「もう帰った方が良いよ。終電でしょ」
「社長と話がしたいんですお願いです」
お酒の力は本当に恐ろしい。
ぺらぺらぺらぺらと、私はよく喋った。舌が乾くほど。
それほどまでに、社長の前からいつもの定時上がりの時のように颯爽と立ち去ることができなかった。
社長は、私に「カバンを取ってきてください」と言った。続けて
「コンビニのお酒で良いですか?」
とも言う。
コンビニのお酒という言葉の意味がわからなかったが、もう少し社長と一緒にいられるということだけが嬉しく、私は、この会社に入って初めてのスキップをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます