インターンとしての最後
インターンとして勤務したのは丸々4年。
その間、社長と私が言葉は交わす内容のほとんどは、仕事に関することだけ、
特に社長からの指示と、私のロボットのような返事のみ。工場機械のような関係性のみ。
その間、社長が何に苦しんだのか、普段何を考えているのか……ということは、一切知ることはなかった。
逆に、私が何が普段考えているのかなんて、彼は一切聞かなかった。
仕事だけの関係。
ただ彼が求める仕事を、意思なく黙々とこなすだけ。
この仕事内容は、社長は「素晴らしいことだ」と言っていたとしても、私にはその意味がちっともわからなく、ただ お金を稼ぐ手段としての関係性でしかなかった。
インターンが終われば、それで社長との関係が終わると思っていた 。
気がつけば、大学を卒業する時がやってきた。
その4年の間にインターンや社員の人数が増えて、 高校のクラス一個分の人数規模になっうていた。
社長が目指す方向性に共感をしたというインターンは、皆私と違って夢を追いかけているような、ギラギラした目を持つ人たちばかりだった。
一方での私は、最初のきっかけはお金しかなく、のんびりと暮らしたい、困らない程度のお金があればそれでいいくらいにしか思っていなかったので、正直彼らとは一線を画していた。
そのせいか、他のインターンとは距離ができていたが、社長は そんな私のことをさりげなく気を使ってくれていた。
無理に飲み会に誘うこともなかったし、他のメンバーがある時私に対して
「もっと明るく!ハッピーオーラだしなよ」
「こっちのチームに居るんだから、大きな夢を持たなきゃダメだよね」
という意見を押し付けようとしたときもあった。その時も社長は
「人はそれぞれなんだから、別にいいじゃない」
一言だけ言ってその場を収めたこともある。
そんな社長が、唯一私を誘ってくれた飲み会と言うのが、社内で簡単に行う卒業飲み会だった。
さすがに今回は私が主役だし……とも思った。それでも、普段の私ならきっと「仕事だからしょうがないか」と、ため息1つくらいはついただろう。
だけど、この日の私は「社長が誘ってくれた」というだけで、 今までにないような わくわくした気持ちでその飲み会の時を待っていたほどだった 。他のメンバーが誘ったら間違いなくこんな風には思わなかったと思うが。
この会社の最初にして最後の飲み会だったので、どんな雰囲気になるのか、私は実はこの時まで知らなかった。
これがまあ酷い。
この会社のメンバーは 面談の時に酒癖の悪さでも聞かれたのだろうか、と思う程、酒癖が悪い人を集めたのだろうか。
泣きながら恋人の愚痴を言う人。
こんこんと、説教ばかり壊れたからくり人形のように繰り返し呟く人。
何が面白いのかにもわからない話題に対してもケラケラケラケラ笑ってい人。
巻き込まれるのが嫌で、自分に配られた紙コップに注いだ、唯一飲める梅酒をちびちび飲みながら、傍観者でいることにした。
社長は、私とは正反対の位置に座っていた。
落ち着いた物腰で、ただひたすら、一本のワインをずっと飲んでいた。
よっぽどそれが気に入ったのだろうか、社長はそのボトルを誰とも共有せず、少し注いではじっと眺め、一口飲み、社員の話を聞いて、笑って、一口飲む。
そんな、丁寧に味わうようなの飲み方をしていた。
ほかの人間が、一気飲みに近いような激しい飲み方をしているので、余計にそんな彼の姿が私の心の中に目立った。
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