サーラの決意 3
一夜明けて、サーラは城に戻った。
アルフレッドの予想通り、ひとまずラコルデール公爵の罪については、本人が見つかり証言を得るまで保留となったそうだ。
ウォレスの拘束は解かれたが、ジュディット・ラコルデール公爵令嬢の方は引き続き監視が付けられて城の部屋に閉じ込められているそうだ。
一日しか経っていないのに、ウォレスの顔はやつれたように見えた。目の下の隈のせいだろうか。昨夜はろくに寝ていないのかもしれない。
「大丈夫ですか?」
私室のソファにぐったりと横になっているウォレスに声をかけると、力なく微笑まれた。
「大丈夫とは言い難いが……君は、逃げたほうがよかったんじゃないか?」
ウォレスが体を起こして、ぽんぽんと隣を叩いたので、サーラは彼の隣に腰を下ろした。
ジャンヌの姿はない。昨日はウォレスの側についていて帰宅できなかったので、サーラが登城する少し前に帰ったそうだ。幼い息子が心配なのだろう。
かわりに、ベレニスがサーラと一緒に来ている。
扉の内側に立っているマルセルも疲労の色が濃いので、ベレニスが仮眠をとるように言っていた。マルセルに代わり、シャルが部屋の中に入ってくる。
「逃げられませんよ」
「アルフレッドには逃がすように言っておいたんだが。下町の私の邸は使えるようにしてあるし」
「逃げる必要が出たとしても、ギリギリまでは側にいます」
サーラの過去が暴かれる危険性が出れば、ウォレスの側にいるのは彼のためにならなくなる。そうなればサーラは逃げるだろう。彼のために。けれどもまだそのときではないはずだ。
「……情報の整理には君がいたほうがいいとはアルフレッドが言っていたが、君を利用しないでくれと言っておいたんだがな」
アルフレッドには何を言っても無駄だろうが、ウォレスの気持ちは嬉しい。
それにもしアルフレッドがウォレスの命令を忠実に守ってサーラを遠ざけようとしても、サーラは引き下がらなかっただろうから結果は同じだ。
「アルフレッド様が、場合によっては離宮に移ることになるだろうと言っていましたけど、そうなるんですか?」
「可能性が高いな。兄上の派閥連中は、これを機に私を城から遠ざける気でいる。……探られたくない腹があるのかもしれないな」
(ラコルデール公爵の罪が冤罪であったら、それが暴かれると逆に自分たちの立場が終われるでしょうからね)
百パーセント安全な勝負はない。
第一王子派閥の人間が勝負をかけてきたのならば、彼らだって相応の覚悟があるはずだ。そして自分たちに火の子が降りかからないように、策を練っているはずである。
(……セザール殿下は?)
あの読めない第一王子は、どうしているだろう。
第一王子派閥の貴族と、第一王子の行動が必ずしも一致しているとは限らない。
というより、セザールがウォレスを嵌めるために動くとはどうしても思えなかった。
(離宮か……)
離宮に移ると、城の情報が仕入れにくくなる。
アルフレッドのことだ、城の中にも使える駒を配置しているだろうが、どうしてもタイムラグが発生するだろう。
ラコルデール公爵夫妻がどこに身を潜めているのかはわからないが、悠長には構えていられない。
「ベレニス、あとでいいからジュディットの様子を見に行ってくれないか。ずいぶん憔悴していたようだ。私は不用意に近づかない方がいいだろうしな」
「わかりました」
「殿下、ラコルデール公爵令嬢は……」
「何も知らないようだ。尋問されそうになったのを兄上が止めたから、大丈夫だとは思うが」
「そうですか……セザール殿下が」
そうであるならば、セザールは第一王子派閥の貴族と目的が一緒ではないのだろうか。
セザールが敵に回るか否かで、状況が大きく違うのは間違いないだろう。あの王子を敵に回したくない。
「ごめん、マリア。喉が渇いた」
「はい、お茶を入れますね」
とにかく、小さくても少しずつ情報を仕入れるしかないだろう。
まずは――
(金丹……『不老不死の秘薬』について、少しでも情報がほしいわね)
誰が所持をしていて、どういう経路で出回っていたのか。
サーラはお茶の準備をしながら考える。
早急に、アルフレッドへの確認が必要だ。
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