第4話 なんというドS男
「えっと……私に何をお望みなのでしょうか」
ビクビクしながらルシアンに問う。
「そう難しいことではありません。聖女オリヴィアとしてここで過ごしていただく。ただそれだけです」
「それは、いつまで……?」
「一生ですね」
ぎゃああああ!
そんなきれいな笑顔でさらりと恐ろしいことを言わないで!
「ですが一つ困ったことがあります。肉体に魂が戻っても、神力が回復していない。先ほど触れたときにそれを感じました。本来のものではない魂が宿ったせいなのかもしれませんが……」
「あのほら、神力とやらもないようですし、一生というのはなんとかなりませんか」
「逆に、あなたにとって他に生き延びる方法はないのでは? 聞いたこともない国から来たあなたが、ここを放り出されてどう生きていくと?」
「うっ」
「それとも、どうやってかわかりませんが元の体に戻るとでも? あなたの肉体は死んでいるのですよね?」
「ううっ」
たしかに。
魂がこの体から抜け出たところで、帰るべき体はない。
「わかりました、こうしましょう。聖皇と相談の上ですが、聖女としてじゅうぶんに神殿に尽くしてくれたと判断できれば、あなたが生活に困らないようにした上で解放して差し上げます」
「それは何年くらいのお話で……」
「さあ。私の一存で決められるものではありませんから」
身勝手な、とは思うけど、他にどうしようもない。
たとえ脱走したとしても異世界でどう生きていけばいいかわからないし、美人だから下手すればさらわれて売られてしまうかもしれない。
まずはこの世界で生きのびることを考えよう……。
「わかりました……そのお話、お受けします。オリヴィア様のふりをします」
「あなたが物分かりの良い方でとても助かりました」
さんざん脅したくせに物分かりがいいって何!?
……と思っても、それを口に出すことはできない。小心者だから。
「えっと、オリヴィア様はどんな方だったんですか? やっぱり聖女というからには、立派な方だったのでしょうか」
ルシアンから貼り付けたような笑みが消え、瞳がすう、と冷たくなる。
怖い怖い、真顔が怖い!
「あのクソア……いえ、オリヴィアの性格ですね」
今クソアマって言おうとしなかった!?
「彼女は、一言で言えば“性格が悪い”です」
え、性格が悪い? 聖女なのに?
この人に性格が悪いって言われるってことはよっぽどなのかな。
「
「……えっ?」
「外で活動する時だけはいかにも聖女らしく振る舞う点は評価できましたが。神殿内では神官から下女に至るまで嫌われていました。オリヴィアが各地の神殿からかき集めた見目良い聖騎士たちにもさらに嫌われています」
「……」
「ああ、もちろん彼女には感謝していましたよ。性格がどうであれ、神殿にとって大切な存在ですから。それをいいことに、私に毎日のようにベタベタと……ああ思い出すのも汚らわしい」
ルシアンが目をそらし、眉間にしわを寄せながら髪をかき上げる。
少なくとも彼にはものすごく嫌われてることはよくわかった。
そして神殿じゅうの人に嫌われてる……と。
人に悪意を向けられるのはものすごく苦手なのに、どうしたらいいの?
しかもこれからずっと、わがままで傲慢で人を人とも思わない自由奔放な男好きとして振る舞わなきゃいけないってことだよね!?
「あのぉ……このお話なかったことには」
「なりませんね」
ですよね。
「オリヴィアとあまりに違いすぎるのが心配ですが、あなたは私に無意味に触れたりはしないようなので、その点はとてもありがたいです」
彼が笑顔に戻る。
女性が苦手なのかな。
ううん、特に苦手じゃなくたって好きでもない異性にベタベタ触られるのは男性だって嫌だよね。
「私もサポートしていきます。あなたはとにかく、美貌と立場をかさに着てわがままに傲慢に振る舞ってください。あなたのその性格では、やりすぎだと思うくらいが丁度いいかと。あなたにお仕えするメイドのことは家畜以下とお思いください。男好きは、まあ一番の被害者は私でしたからひとまず気にしなくて結構です」
「は、はい……。神力がないとか魂の気配が違うのとかはどうしたらいいでしょう」
「それがわかるほどの能力者はこの神殿では私だけなので心配いりません。彼女は聖女としてのメリットがない限り他人のために神聖魔法を使うような人ではかなったので、その点も大丈夫です。また、聖女として最も大切な各地の神殿を巡る旅もオリヴィアがすでに終えています。あなたはただここにいてくれればいい」
「わかりました」
「では」
彼が立ち上がる。
そのまま部屋から出ていくのかと思いきや、なぜか私の隣に座った。
「あの……?」
彼がにーっこりと笑う。嫌な予感しかしない。
「先に謝罪しておきます。痛みはさほどありません。このようなことをしたくはありませんが、神殿の命運がかかっているので大変申し訳ありません」
言いながら、ルシアンが右手の手袋を外す。
こわいこわいこわい何!?
彼が私の肩に左手を回し、右手で私の首に触れた。
彼に触れられている首が熱くなる。
「な、なに、かはっ……」
逃げようとしても、彼の腕の中から逃れられない。細身に見えるのに、なんて力……!
「誓いなさい。聖女に関する秘密を聖皇と私以外には話さない、と」
「ちか、ちかいます。誓いますから、はなして……っ!」
意外にも、彼はあっさりと両手を離した。
そして立ち上がる。
「大変失礼いたしました」
彼が恭しく頭を下げた。
その様が白々しくて腹が立つ。
「なにを……したんですか……」
「大丈夫です、ただの誓約魔法ですから。あなたが聖女の秘密を話さなければ何事もありません」
「は、話したら……?」
「首が絞まって死にますね」
いやぁぁぁぁ!
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