第1部ー5
この日、仕事が終わったのは、午後十時を少し過ぎた頃だった。フロアに残っていたのは、隣の島の、第二営業課の男性社員が三人と、唯香と宇野沢だけだった。業務が終わったことを宇野沢に報告し、PCの勤怠管理に退勤時刻を入力し、承認依頼ボタンを押した。挨拶もそこそこに足早にフロアを出て、丁度降りてきたエレベーターに飛び乗った。社員通用口を出ると、亜熱帯地方のような、むわっとした湿気を帯びた空気が唯香にベタベタと纏わりついた。雨水を吸収した街路樹から夏の匂いがした。
最寄り駅に到着する頃には、二十三時を過ぎていた。コンビニに立ち寄り、ナポリタンとサラダと檸檬の缶酎ハイを買った。すっかり眠りに就いた錆びれた商店街のアーケードを潜り抜けると、大通りに出る。大通り沿いを東に向かって三百メートルほどの所に唯香が暮らす鉄筋コンクリート造りの五階建てのマンションがあった。唯香は何かを思い出したかのように、ふっと立ち止まりマンションを見上げた。三階の一番奥の部屋のパステルブルーのカーテンからオレンジ色の灯りが漏れていた。
(アイツ……来てるのか……)
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