第1部ー4
「あの子が短大卒で入社してきた頃さ、彼女、あからさまに社内で、男漁りをしてたんだよね。俺、同期の
唯香の中で、消化できない疑問が湧き上がって来た。このことを岡崎さんに訊いてよいものかどうか逡巡した後で、思い切って訊いてみることにした。
「そうだったんですね。あの……素朴な疑問なんですけど、お訊きしてもいいですか?」
「うん。俺でわかることなら」
「男の人って、小川さんみたいな女性が好きなんですか? こう言ったら失礼かもしれませんけど……彼女、特別、美人っていうわけでもないし、可愛いってわけでもないですよね? それに……性格もちょっと」
唯香は、思い出したくもない小川美希のビジュアルを思い描いていた。標準体重を大幅に超過しているであろうぽっちゃり(肥満)体系。下膨れの顔、パサパサに痛んだ長い髪をご丁寧にコテで毎朝巻いてくるのか、いつも遅刻ギリギリで出社している。要するに、デブスなのだ。なぜ、そんな女が、次々と男を落としたり、三股かけたりすることができるのか? そのことが、どうしても理解できなかったのだ。
「うーん、そうだねえ……それについては俺も理解に苦しむよ。これは、飽くまでも俺の想像なんだけどね。彼女は自分の容姿が優れていないことを自覚していて、容姿を武器に闘うことはとうに諦めている。じゃあ、何を武器に闘おうか? そこで彼女が選んだ武器が〈女〉だったんじゃないかな? 男なんて皆バカだからさ、多少、見た目に難がある女でも、自分のことをちやほやしてくれる女に対しては、悪い気はしない筈なんだよ。それに、彼女は、〈女〉をぷんぷん匂わせることで簡単に落ちそうな、あまり女に免疫のない男を故意に選んでいる気がするんだよね」
「なるほど。でも、彼女、岡崎さんにも言い寄ってきたんですよね? 岡崎さんは女性に免疫がないようには見えないんですけど」
「そう? 俺、全然モテないよー。でも、強いて理由を考えるなら、俺、あの時、嫁とうまくいってなかったから、つけ入る隙があると思われたんだろうね。逆パターンを想像してみてよ。男だって、つけ入る隙がある女の方が手っ取り早く落とせるって思うじゃん? その点、成瀬さんは、まったくもってつけ入る隙がないんだよなあ。美人だし、高嶺の花って感じでさ。アプローチするにはけっこうな勇気が要るよね」
岡崎さんが、熱っぽい視線を向けてきたので、思わず、唯香は俯いてしまった。
「そんなこと……全然ないんです。寧ろ、隙だらけっていう感じで」
唯香は、もごもごと口ごもった。
「そうなんだ? それじゃあさ…今度、ふたりでゴハン食べに行かない?」
「へっ?」
「こんなバツイチの男とじゃイヤかな?」
「そ……そんなことないです。行きたいです。ゴハン食べに」
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