アイドルの義姉を見返すために女装してデビューしたら戦隊ヒーローになってたんだけど、どゆこと？

第24話 タオルは投げないで

　最初に攻撃を仕掛けたのはミチコだった。

　拳からジャブを数発放つ。

　しかし、舞はこれらの小手先のパンチを、うまく間合いを取ることによってよけた。

　小刻みにジャンプしながら、ミチコから視線を逸らさぬ舞。

　ミチコがもう一度拳を打ち込もうとした瞬間、隙のあった足めがけて足払いをかました。

　途端、ミチコは体勢を崩しリングに尻餅を付いた。

　歓声が上がる。

　舞はミチコに素早く馬乗りになった。

　そして、その細い腕を相手の頬に振り降ろした。

　正直、可愛らしい第一印象からは想像できないバイオレンスな姿だが、やはり負けるよりは勝って欲しい。

　俺はガッツポーズをし、思わずいいぞ、と声を上げてしまった。

　二、三発。

　繰り出される拳を頬で受けたミチコは、素早く体を反転させ馬乗りから抜け出すと、舞の鳩尾を蹴り上げた。

　これが、形勢逆転のきっかけとなった。

　もろに急所を打たれて、舞は目を白黒させながらよろめいた。

　ミチコは幾分腫れた頬のまま、仕返しと言わんばかりに舞に蹴りを入れた。

　ああ、うわあ、と声にならない声を上げながら、俺は下半身が縮み上がるのを感じた。

　脳震盪を起こしているのだろうか。

　瞳のうつろな舞はその場でよろよろと立ち尽くしながら、相手の攻撃をただ受け続けている。

　ミチコがロープに飛び込み、反動をつけて駆け寄り、舞の首に強烈なエルボーをかました。

　床に倒れ込む舞に、今度は飛び上がりギロチンチョップをお見舞いする。

　舞の体が弓なりにしなり、苦しそうな呻き声が唇から洩れた。

　俺は思わずロープにしがみついた。

「もう止めてくれ！」

　と叫ぶが、歓声怒声飛び交う会場ではそんな声はかき消されてしまう。

　再前列の客から、邪魔をするなと引きずり降ろされてしまった。

　舞は一方的に攻撃を食らっている。

　相手はたくましい腕から放つ拳を容赦なく舞の体に打ち込んでいる。

　舞は、体を反転させながら、それでも必死で膝を付かないように耐えている。

　舞の前髪から汗が飛び散り、俺の頬にかかった。

　もう見ていられない。

　為すがままにボコボコに袋叩きの舞の為に、手に持っていたタオルを投げ込もうとした。

　しかしその瞬間、きっ、と目を開いて、俺に向かって首を横に振った。

　大丈夫だと、言うように。

　見ているこっちが気が遠くなり、血の気が一気に引いていった。

　しかし次の瞬間、舞はミチコに向かって頭突きをかました。

　火事場の馬鹿力か、ミチコはのけぞり、その隙を見逃さず、舞は素早くドロップキックを胸に当てた。

　思わぬ反撃を食らった相手は、リングの端でピクピクと痙攣しながら倒れ込んだ。

　１、２、とレフリーのカウントが始まる。

　どうか立ち上がるな、と手を重ねて強く祈る。

　祈りが通じたのか、試合終了の鐘がなり、レフリーが舞の腕を掴んで天井高く上げた。

　勝者の舞は、にっこりと俺を見て微笑んだ。

　良かった。勝ったんだ！　

　息を大きく吐いて、俺は投げ込もうとしたタオルを握りしめたまま、よろよろとパイプ椅子へと座り込んだ。

　よほど興奮状態だったのだろう。

　一発も殴られていないのに、次の瞬間俺の鼻から鼻血がたらり、とこぼれた。