第21話 薄暗いライブハウス
新宿にあるとある小さなライブハウス。今日はそこが働く場所だ。
雑居ビルの地下にある、薄暗い場所。
恐らく用が無ければ一人では一生近づかないようなぐらい治安の悪そうな場所へと入っていった。
地下へと下りていくと、スタッフの腕章をつけた、緑色のモヒカンの大男に捕まった。
思わずひいぃと悲鳴を上げ、ああこのまま俺は遠い異国に売られてブラックマーケットで取引されるんだーなどと悲観に暮れていたら、手伝いに来たのならこれを運べ、とスピーカーを渡された。
モヒカン大男は軽々と肩に二つ背負って運んでいるが、機材だけあって相当重い。
両手で抱え込むようにしながら運ぶも、腕の筋がビキビキと痛んだ。
舞台の上では、今日のメインボーカルである牙城が、マイクを持ってリハーサルをしている。
バックバンドの者達も思い思いにギターやドラムの調整をしており、その様子を袖から眺めるのはなんだか少し楽しかった。
文化祭のイベントを企画している実行委員のような気分だ。
しかしそんな事をやるのは大概がクラスでも一軍の奴らなので、手を貸したことなどは無いが。
そんな事をしているとサボっていると指摘されモヒカンに怒られ、スピーカーをもう一台増やされた。
死ぬってこれマジで重いから!
表の看板へポスターを張ったり、会場内を掃除したり、前の通りに行ってチラシを配ったり、グッズの販売をしたり、既に開場前で並んでいる子たちの列を整理したりと、休すむ暇などありゃしない。
恐らく高校の視聴覚室の半分ほどしかないような狭くて暗いライブハウス。
肩をほぐしながら幕間の陰でぐったりしていたら、後ろから尻を蹴り上げられた。
「おう、デカイ尻があったから足が当たっちまった」
痛みで涙目になりながら振り返るとリハーサルを終えた牙城だった。
今日も絶賛体調不良といった容貌だが、どうやらライブが楽しみでテンションは高いらしい。
「甲斐甲斐しく働いてくれてありがとうよ」
「楽しそうですね」
「ハッハ! そりゃあそうだ。
ステージで歌うたびに魂が浄化されるような気分だ。
目の前で全裸のマリア様が誘っているぜ」
いつも通り良く分からない例えをしながら、牙城は犬歯を覗かせて笑みを浮かべた。
背が高いので見上げる形となる。
今日はメッシュ地の服を着ていて上半身がほとんど透けているが、あばらが浮いているほどガリガリだ。
「俺の歌を聴くのは初めてだったな、ティンカーベル。
ケツに花火をぶち込まれたような快感がテメェを襲うから、覚悟しときな」
と言うと鼻唄を歌いながら控室へと入っていった。
開演の時間がやって来て、客が一斉に入口へと入って来た。
ゴスロリというのだろうか。
黒を基調としたフリルのついた派手な服を着た女の子や、パンクバンドのように派手な化粧をして腕にタトゥーを掘った男達が一斉になだれ込んでくる。
みんな我先に前の方を陣取ろうと駆けだすので、それを整列させるのに骨が折れた。
ほどなくして、ライブ会場自体が真っ暗になった。
激しいドラムの演奏と共に、ギターを担いだ牙城が颯爽と登場した。
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