第12話 魔王に即バレ
うかつであった。
「アンタなんなのその顔あっはーっはっはっはっはっは!!」
こんなに可愛らしく変身できるとは思っていなくて、そして本気でプロダクションに入れるとは思っていなくて。
夢見心地でふらふらと、化粧も落とさず着替えもせずに帰り道を歩いて家までついた。
自分の部屋へと上がり、扉を閉め鏡の前でもう一度自分をじっくり見つめていた。
ガールインザミラー。鏡にはぱっちりお目目で唇をキラキラのグロスで飾った少女。
あの妙にお洒落な男の手で変身した俺だ。長谷川裕樹の姿だ。
頭では分かっているのに、どうしても気持ちが追いつかない。
だけどなんだろう、なんだろうこの気持ち。
ゾクゾクするぜ!!!!!
そして全身鏡に思わず抱きつき、その冷たい鏡に頬ずりをしていた。
妙な高揚感が体を支配していた。何か危ないものに目覚めてしまいそうだ。
俺は初めての感覚に酔いしれていて、気がつかなかったのだ。
部屋の隅には、我が物顔で俺のマンガを読み漁っている、魔王が居たことに。
まるでホラー映画のワンシーンのようだった。
鏡に映ったルリの姿を見て、心臓がびくりと跳ね上がった。ゆっくり、ゆっくりと振り返ると、彼女は俺の首と取ったかのように、にやりと凶悪な顔をした。
「ついに変態に目覚めたのね!
こんにちは犯罪者予備軍さん」
ルリは近所迷惑だというほど大きな声で笑い続ける。
相当ツボに入ったらしく、肩をぴくぴくと痙攣させている。
俺は恥ずかしさと困惑と腹ただしさでどう反応すればいいか分からなくなった。
「なぁにそれ、罰ゲーム? なかなか可愛く作ってもらってるじゃない。
なんなら今から戸籍も変えてきちゃえば?」
眉を吊り上げて意地悪そうな表情でルリは言う。
その言い方にカチンときたので、地団太を踏んでふざけんなと言い返す。
一歩踏み込むと、ふわりとスカートが舞って、ルリはまた吹き出すのだ。
頭に血が上った俺は熱弁した。
お前が来てから俺の人生は狂ったということ。
親に愛されずに育った子供の末路の悲惨さ、今までに受けた言われの無い暴力や悪行に対しての恨みつらみ、負け犬人生を抜け出したいという覚悟、全てをぶちまけた。
ガンジーやキング牧師、歴代大統領さえも超えるほどの熱い熱い演説が部屋で繰り広げられる。
そして最後にはこういうのだ。
「どうだ、この可愛い俺が、クリスタルプロダクションでデビューしてシャイニーガールコンテストで一位を取ってお前を超える。
女装した弟に負ける屈辱を十分に味わえ!」
目を剥いて言い放った。
まるで全力疾走をした後に炭酸飲料を飲んだような、とても清々しい気分だ。
うかつであった。
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