第9話 女に見えるか検証中

「前言ったっけ。

 俺の親戚の姉さんが、小さいけど芸能事務所の社長をやってんだ。

 俺から言えば入れると思うし、可愛い服着て女装すればいけるんじゃん? 

 しらね―けど」


 リーチは面白い事を見つけた、というようなわくわくした子供の目をしていた。


 俺も、馬鹿馬鹿しくてくだらない発想に、思わず首を縦に振ってしまった。


 そうやって決めると、あとは男同士のノリである。


 放課後になって駅前のドンキホーテのコスプレコーナーに行き、ロングヘアーのウィッグとセーラー服を試着した。

 スカートがひらひらするし、足がすーすーして気持ちが悪い。


 しかし女装をして試着室から出てきた俺の姿を見てリーチは大爆笑した。

 

 膝を折って床に手をついて腹を抱えて転げまわるものだから、俺もおかしくなって一緒に笑った。


 二人で割り勘して、その二つを買い込む。


 でも、客観的にちゃんと女の子に見えているのだろうか、ということを検証しなくては、という話になり、レンタルDVD屋へと入った。


 丁度その日はレディースデーだったのだ。

 

 ブレザー姿のリーチとセーラー服にウィッグをつけた俺は、まるでカップルのように見えているのかもしれない。


 いつも借りるアクション物やプロレスのDVDとは違い、恋愛映画を二、三本手に取り、レジへと向かった。


 レジにDVDを置き、裏声を出す。


 内心はドキドキである。

 レジのお姉さんはちらり、と一瞬訝しげな眼でこっちを見たが、すぐに貸し出し泊数を聞いた後、レディース割引で二割ほど引いた。


 それだけでも最高なのに、貸出カードの名前は男になっているので、店員が「ご家族のカードですか?」と尋ねてきたのが傑作だった。精一杯のかわいらしい声で「兄のですぅ」と言う。


 思ったよりも安く借りられたDVDを受け取り、振り返るとリーチが口を押さえて耐えていた。肩は小刻みに震えている。


 二人連れ立って店を出て、信号を渡りながら通り一帯に響くような声でゲラゲラ笑った。


 どうやらそれなりに女に見えるらしい。

 

 腹筋がよじれるほど笑いながら、公園の公衆便所で着替えて帰路についた。


 んじゃ日曜の昼に駅集合ね、お洒落して来いよ、とリーチはまた爆笑しながら帰っていった。


 あんまりそれが可笑しかったから、失恋して昨日の今日だというのに、とても晴れやかな気分だった。


 やっぱりあいつはいい奴だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る