第8話 リーチの提案

「じゃあ、ルリさんに勝てばいいだろう」


「あんな奴にさんなんてつけなくていい。

 呼び捨てで良い。もしくは大魔王デリカシー無し女」


「分かった分かった。

 だから大魔王デリカシー無し女よりも優れているものを一つ、持てばいいだろ」


 リーチは俺に優しく合わせてくれた。

 しかし、反抗の方法が思いつかない。


 悪口や陰湿な方法は性に合わないし、仁義に反する。何より超ダセー。

 何か、正々堂々とあいつを負かし、自分に自信をつける方法は無いだろうか。


 だが、今やあいつは国民的アイドルだ。

 歌も出してるしドラマも何本も出ている。

 

 バラエティでは司会者の横のアシスタントやパネラー、そして旅番組やファッションのCMにも引っ張りだこ。


 その癖高校は自分より偏差値の良い高校に行っている。

 運動神経も相変わらず健在で、勉強、運動共にここ数年ずっと堕落した生活を送っていた自分とははっきりと差がついてしまっていた。


 さらに、あいつの周りには掃いて捨てるほど、いい男が集まって来る。


「勉強も運動も、知名度も好感度も、モテ度もルリの勝ちだ。悔しいけどな……」


 がっくりと肩を落とした俺を見て、食べ終わった袋をポケットにねじ込んだリーチは、


「確かルリさん、なんちゃら美少女コンテスト二位だったよな」


 と呟いた。


 完璧超人と言っても過言ではないルリだが、確かに数年前、エントリーされた美少女コンテスト、確か正式名称はシャイニーガール・コンテストとかだったが、それでは二位と言う結果を残した。


 当時一世を風靡していたアイドルに一歩及ばずで負けてしまったのだ。


まあそのアイドルはそれから数カ月でスキャンダルで週刊誌にすっぱ抜かれ、芸能界を去っていったので、ルリからしては喧嘩に負けて勝負に勝った、と言ったところだろうが。


「確かそうだけど」


「じゃあお前がそのコンテストで優勝すれば良いじゃん」


 リーチはヤンキー座りで気だるげに言い放った。


 はあ、それは良いアイディアである。

 二位だったあいつに対し俺が一位になれば、世間的にも勝っていることを示すことが出来る。


 いや待て。


「シャイニーガールコンテストだぞ。

 ガール。まず出場出来ないだろうが」


 もし男もイケメンコンテストみたいに出場出来たとしても、俺はどう贔屓目に見ても容姿は十人並だ。

 

 むしろ、切れ長の目と良い骨格を持っているリーチの方がよっぽど男前である。


 しかしそんな反論もよそに、屋上の日の光に当たり気持ちが良さそうに目を細めたリーチは、俺の全身を上から下まで見つめ、



「女装しちゃえば?」


 と言った。


 時が止まる。


 遠くでタイミング良くホ―ホケキョ、とウグイスが鳴いた。


「………………え、マジで言ってる?」


「だってお前ガリガリで色白だし、いけんじゃね?」


 正直俺は身長が低い。

 体育の時、前へならえと言われても両腕を腰に置いたことしかない男だ。

 遠まわしに言ったが最前列なのである。


 背は低いし、運動をろくにしていないためひょろひょろである。

 そんな所も、ルリにナメられる要因の一つなのだろう。


「いけるかな」


「いけるいける余裕余裕」


 リーチは適当そうに言いながらも、にやりと不敵に笑った。

 こいつは昔から、俺の気持ちを乗せるのが上手だ。

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