第4話 リーチとヒーロー
気分はまるで忍者だ。
登校中、そして下駄箱、廊下では常に神経を周囲に研ぎ澄ました。
壁伝いに歩き、死角が無いように移動し、教室を目指す。目的は「あの子」に会わないようにするため。
無事任務は遂行でき、自分の机まで行くことが出来た。
しかし油断はできない。
あの子は同じクラスで、二列挟んだ後ろの方に座っている。
自分より前の席でなくて良かったとは思いながら、顔を見ないよう顔を机に突っ伏した。
そうして一時間目から四時間目の授業をやり過ごした。
担任からは何度か名簿で頭をどつかれたが、顔を上げずに返事をした。
昼休みのベルが鳴り、放課後までやり過ごそうかと思ったがさすがに腹が減ったので、ゆっくりと顔を上げる。昼下がりの明るい教室に目が慣れずに瞬きをしていると、前の席に長身の男が座った。
「おはようヒーロー」
と声を掛けられたので、
「おはようリーチ」
と返した。
リーチとは小学校からの幼馴染で、親友だ。
あだ名のリーチというのは、小学校の時「
ちなみにヒーローと呼ばれているのも、「
ヒーローとリーチは、今の今まで仲良しこよしの大親友。
低学年の時、プールの授業の時にお腹を下し、そっと列を離れて先生に見つからないようにトイレを探していた。
しかし見つからず、びしょびしょの姿のまま肛門は限界に近付く。
でも、学校で大をするのが恥ずかしいとされていた年頃。誰にも聞く事は出来ない。
半ベソをかいていたそんな絶体絶命の時に、たまたま怪我をして見学をしていたリーチが「トイレこっちだよ」と教えてくれたのだ。そうして間一髪、事無きを得たのである。
それが無ければ完璧に漏らしていた。俺のあだ名が「ウンコマン」にならずに済んだのは、他でもないリーチのおかげなのだ。
リーチは朝からずっと机に突っ伏している俺に、何故落ち込んでいるのかは聞かなかった。
あの子と遊園地に行くとは言っていたし、告白するかもと意気込んでいたし、そんな俺が落ち込んでいるから全て察したのだろう。
パンをむしゃむしゃと食べながら、昨日発売した漫画の話をしだした。いい奴だ。
腹の虫が鳴ったので、仕方がなく弁当を取り出そうとして、顔を上げた。
その時、隣のクラスの女の子とおしゃべりをしている「あの子」と、目が合ってしまった。
思わず、視線を外す。
心臓はばくばくを脈打ち、冷や汗が噴き出た。いきなり視線を反らしてしまったので、視界の端のあの子は、とっても気まずそうに目を伏せていた。
あの子は、隣のクラスの子と一緒に教室を出ていった。ほっと息をついた刹那、ポケットに入れておいたスマホが震える。
あの子からの連絡だった。
たった四文字。『ごめんね』と言うだけの本文。
何がごめんねなの?
告白断ってごめんね?
昨日置いてさっさと帰っちゃってごめんね?
それとも、思わせぶりな態度取ってごめんね?
静かにスマホの画面を消した。
「あああああああぁぁ―――――もう」
頭を抱え、机に再び突っ伏す。
どうしようもない虚無感が襲ってくる。
頭を掻き毟って叫び出して金属バットで学校中の窓ガラスを割って回りたいほどの気分だったが、若い身空で臭い飯を食べたくは無いので、ギリギリの理性で踏みとどまった。
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