第30話 福岡県民、理解する。

 



 団長がネタのBとLな噂の出元は分かった。


 彼女はなぜに今更?とも思わなくはないが、なんとなく理解できる。

 彼女は今、二六歳。

 団長の大人エロさにやっとこさ気付いて、焦っているのだろう。

 ワンチャン、間近でBとLを見たいとかいう、煩悩ダダ漏れの可能性もあるかもしれないけど。


「そういえば、カリナも好きそうだったな……」

「いや、あの……どっちかといったら、興味津々やけど」


 そこはちょっと宇宙空間くらい遠くに置いておいて欲しい。


「はぁ………………どうしてこうも女運が悪いのか」


 団長が両膝に肘を置き、ガックリと俯いてボソリと呟いた。

 聞きたくなかったけど、聞こえてしまった。

 それには私も含まれるんだろうか。

 話の流れからして、違うとは思うけど。どうしてもそんな風に感じてしまう。


「運がよかったら……もっとと、って?」

「っ! そういう意味では……」

「ん。わかっとるよ、わかっとるんよ。でもね、きっといつか、ウチも団長を悲しませる時がくるから」

「カリナ?」


 この世界に飛ばされた理由は分からない。

 この世界に居続けられる理由も分からない。

 この世界に、どれだけ居たいと思っていても。


「いつか……消えたら、ごめんね」


 ちょっとずつ進めていこうと思っていたけど、今がいいタイミングだと思うから。

 今まで伝えられなかった言葉を。


「好きやけどね、ウチが選んだらいかんことやと思う。好きだけじゃ進んじゃいかんけんさ…………ちゃんと、団長が決めてね」

「……なに、を?」

「………………言われとらんもん」


 義両親とか、お義母さまとか、お義父さまとか、ノリで言っていたけれど。

 そもそも、将来の約束なんてしていないから。


「……帰る!」


 喉がひりついて、話せなくなりそうな気がした。

 この場から逃げたい。

 泣きたい。

 一人でわんわんと泣きまくりたい。

 泣いて何になるわけでもないのに。

 感情を溢れさせて、捨てて、いつもの私に戻りたい。

 

「っ……離して」


 ソファから立ち上がって執務室から出ようとしたら、団長に後ろ抱きにされた。


「カリナ、不安なことはちゃんと話してくれ。共有してくれ。話してくれないと、分からない。俺は、カリナとずっと一緒にいたい。それは伝わっていなかった?」

「…………伝わっとるよ。ごめんね」


 身体を捩り、団長の腕の中から抜け出した。

 でも、それが出来たのは団長が腕の力を抜いたから。


 くるりと身体を回転させられ、今度は正面からきつく抱きしめられた。


「団長」

「いつもそう呼ぶな。こんな時くらい『ロイ』と呼べよ」

「っ、ロイ……」

「愛している。伝わってないんだろう? 何度でも言う。愛している。逃げるな」


 もぞもぞと動いて抜け出そうとしているのがバレてしまった。

 団長が私を縦に抱き上げ、歩き出した。


「どこ、行くと?」

「……落ち着いて話し合いたい」


 縦抱きさにれたまま馬場に到着。馬車に乗せられてしまった。

 

 馬車の中では流石に抱きしめられてはいなかったけれど、手は無理やり繋がされた。

 私たちの異様な雰囲気に、御者さんは戸惑っていたけれど、団長は「屋敷に」とだけ伝えていた。

 どこの屋敷に行くのだろうか。



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