第21話 福岡県民、呼び出される。
お義母さまとの初対面は、多少ワチャワチャしたものの、たぶんどうにか平和に終わった。
今度は団長のお父様もいるときにランチしにいらっしゃいとお誘いを受けた。
「お義父さま……侯爵閣下?も受け入れてくれとると?」
お義母さまの話し方的に、そんな感じはしたけれども。
団長がにこりと笑って頷いてくれたので、ホッとした。
王城敷地に到着し、使用人棟まで送ってもらっている時にふと思い出した。
「そういえば。団長、本当の名前はローザリオっていうと?」
「っ! それで……呼ばれるのは…………嫌いだ」
苦虫を噛み潰したような顔で、そう言われてしまえば何も言えないわけで。
ごめんね、と意味もなく謝って扉の中に入った。
後ろで団長の声がしたけれど、聞き取れなかった。
いつも通り出勤して諸々の雑務をこなす。
団長がチラチラとこちらを見てくるがスルー。
「カリナ、アレ。何とかしてください」
「やだ。仕事する時間やもん」
「カリナ、こちらの仕事になりませんから」
「チィィッ」
力いっぱい舌打ちしたら、副団長に後頭部をベチコンとはたかれた。ひどい。
渋々と団長の机の方を向いて話しかけることにした。
「団長!」
団長がビクリと肩を震わせつつも、気まずそうに微笑みを返して来た。
――――ううむ、可愛かね。
「仕事して!」
「はい」
よし、これでいいだろう! と副団長に視線を向けると、美しい顔をあり得ないほどに歪めて却下の意を伝えてきた。
「そいえば、副団長と団長のお母様ってそっくりやね!」
「なぜこのタイミングで…………あ、理解しました」
何を理解したのだろうか。頭のいい人の思考回路は、全くもって分からない。
団長はこちらをチラチラと見ながらも、書類にサインしだしたのでこれでいいだろう、ということで執務室での作業を終わらせて食堂に向かった。
「カリナ!」
「はーい?」
食堂でお手伝いをしていたら、妙に焦ったジョージが駆け込んで来た。
特別来賓室に来客だから、早く来い! と言われたが、待ってほしい。特別来賓室は上位の貴族しか使えない部屋のはずだ。
そもそも、私を訪ねてくる人物など無に等しい。
一体何が起きているのか、と妙な焦燥感を抱えながら足早に特別来賓室に向かった。
ノックをすると、低く渋い声で「どうぞ」とだけ返ってきた。
恐る恐る扉を開けると、そこには団長を良い感じに渋くしたおじさまがいた。
金色のウエーブヘアーをツーブロックに刈り、緩やかなオールバック。
どこからどう見ても高級そうな、ビシリとした張りのあるスーツ。キラリと輝く革靴。
「…………お義父さま?」
ぽろりと口から漏れ出てしまった。
慌ててカーテシーをして頭を下げると、腰に響きそうな低い声でフフッと笑われてしまった。
「仕事中にすまないね。少し話したい。こちらに座りなさい」
「はい」
団長からは『物静かで優しい人』だと聞いていたけれど、醸される雰囲気は、そうとは思えないほどの威圧感があった。
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