第20話 福岡県民、初対面でキレる。




 あまりにも団長と彼のお母様がしつこくて、イライラ。

 ついつい叫んでしまった。『せからしか』と。


「キャァァァァァ!」


 やばい! そう思ったのに、更に抱きしめる力を強められただけだった。

 だけだった……というと語弊があるけれども。


「なんて言ったの⁉ ねー、ねー、『しぇからしかぁ』ってなんのこと? 教えてちょうだい!」

「母上! カリナが潰れますから! 聞いてます?」


 とにかく煩い。お母様、煩い。

 とにかく煩い。団長も、煩い。


「……せからしかってば。いい加減にして」

「っ! 母上、そろそろ自重してください。その……カリナが本気で怒ってしまう……」


 ちょっと低い声でボソリと呟いたら、団長が異様に慌てだした。謎だ。

 彼のお母様は、プチプチと団長の文句を言いつつも離れてくれた。




「初めまして。ローザリオの母、オルティナよ。『お義母さま』って呼んでちょうだいね?」

「初めまして…………お義母さま?」

「やだ! 可愛い!」

「同意しますが、落ち着いてください」


 お母様こと、お義母さまが興奮しそうになる度に、団長が諌めてくれるようにはなった。


「貴族のルールや常識など、まだ勉強中ではありますが、ロイさまと真剣にお付き合いさせていただいております」


 真面目に、丁寧に。

 ドキドキとしながら挨拶をすると、団長もお義母さまもにこにことしてうなずいてくれた。


「ええ、貴女のも、息子から伺っているわ。大変だったわね。安心しなさい、我が家が後ろ盾にたってあげます」

「っ――――⁉」


 団長は私が異世界から来たことも話していたらしい。そして、お義母さまはそれを信じてくれたらしい。

 受け入れてもらえるって、有り難くて、嬉しい。

 そして、申し訳ない…………。


「本当の母親と思ってちょうだいね? 貴女はもう私の娘よ」


 お義母さまがふわりと優しく抱きとめてくれた。

 団長は柔らかな笑顔で、私の頬を撫でてくれた。


「泣くな」


 いつの間にか涙が出ていたらしい。


 失ったものはあり得ないほどに多く、取り戻したいと思うものばかり。

 既に懐かしくなってしまっているあちらの世界の人と物。

 新しく手に入れたものは、何にも代え難い愛しい人。

 この人の為なら、私は――――。


 いつか『本当に選択する日』が来るのだろうか?

 いまは暖かな人たちに護られ、愛されている。異世界で。

 私は、選択を間違わずにいられるのだろうか?


「うん。ごめんなさい」


 ポタポタと落ち続けるこの涙は、どっちの感情なんだろうか。

 いまは、いまだけは、どこまでも優しいこの人たちに包まれていたい…………。



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