第14話 福岡県民、耐える。
朝、頭も心も重たいけれど、頑張って出勤した。
団長たちの執務室に入ろうとしたころで、元隣室だったジョージに二人とも不機嫌だから気を付けろと言われた。
「おはようございます!」
ノックをし勢い良く扉を開いて、わざとらしいほどに明るく挨拶。
ロイ団長はちらりと私を見るだけで直ぐに手元に視線を戻してしまった。ハンス副団長はぎこちない笑顔で「おはようございます」と返してくれた。
「っ、ちゃんと出勤したんやね、えらいえらい」
「……フン。当たり前です」
副団長といつもの軽い会話。どうにかいつもどおりの日常に戻したかった。さて、雑務をしよう! そう意気込んだのに。
「今日は頼むことはない。他の所の手伝いをしてくれ」
ピシャリと団長に言い切られた。
「うん……わかった。また来るね」
――――ウチのせいやね。
グッと拳をにぎり締め、前を向く。
出勤したんだ。お給料もらってるんだ。ちゃんと働かないと!
いつも通り、お昼ごはんを運ぶ。
ノックをする直前、朝のことが脳裏によぎって手が震える。でも、ノックする。子供じゃないから。仕事は仕事だから。
「お昼ごはん、持ってきたばい」
「……ありがとうございます」
執務室には副団長しかいなかった。
「あれ? 団長はどっか行ったと?」
「ええ。少し前に訓練場に呼ばれて出て行きましたよ」
それなら直ぐに戻ってくるかなぁと、三人分のお昼ご飯をいつものように並べてみる。
少し待ったけれど団長は戻って来そうになかったので、副団長と二人で食べることにした。
「……」
「……昨日」
副団長が、少し気まずそうな声を漏らした。
「あのあと、大丈夫でしたか?」
「うん。大丈夫」
「ですが、団長は…………」
「大丈夫!」
「……申し訳ございませんでした」
「よかよ」
気にしないで欲しい。そもそもの問題は私にあるのだから。
副団長とぽつりぽつりと話している内に、いつもの調子が戻ってきた。
テンポの良い言葉の応酬。
「本当に鈍感ですね」
「煩かってば!」
「鈍感な貴女にはこれくらいが丁度良いでしょう? これからは毎日囁やきましょうかね?」
「なんち?」
「ふふっ。これからも、愛してます。と」
「んなっ――――」
何を言うんだと叫びたかった。そのタイミングで、団長が執務室に戻って来てしまい、また変な空気になってしまった。
「昼休みは終わったと思うのだが?」
団長とちゃんと話したくて見つめるけれど、視線もあわせてもらえない。
「うん。ごめん」
「俺は…………っ、上司で、君はいい年齢だよな?」
「う……ん。申し訳ございませんでした。直ぐに職務に戻ります」
カチャリカチャリ、二人分のお皿を片付けて団長室を出た。
――――泣くな、ウチ!
◇◆◇◆◇
「何なんですか、あの態度は!」
「…………元々、苦情が出ていた」
「知ってますよ! だが、今じゃないでしょう! アイツ――――」
泣きそうな顔をしていた。
あんな顔は二度とさせたくなかったのに。
「カリナと付き合うのか? ハンス」
「は?」
「カリナに愛を囁き続けるんだろう?」
何を言っているんだ、コイツ。
なんで言いたくもない事を言わないといけないんだ。
「カリナが好きなのはお前だろうが! 見ていたら分かるだろうが!」
「……俺のことも、好きではないそうだ」
あんなの、あんなの口先だけのやつじゃないか。
くそ、怒りで口調がブレてしまう。
「では、私がもらいます!」
「…………好きにしろ」
馬鹿だ。
カリナもロイも馬鹿だ!
◇◆◇◆◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます