第6話 福岡県民、詰め寄られる。




 お風呂のあと、皆さんの行動力に驚かされた。

 スッカスカだったクローゼットは、もらい物の服で半分ほど埋まった。

 お仕着せなどを入れる必要があるので、結構広めに取られてるはずなのに、だ。

 

 朝の支度でもらったブラを付けてびっくり仰天。元の世界と遜色ないんだなぁと感心。

 伸縮性はちょっと心許ないけども。

 お値段がえげつないけども。

 タダでもらえるなんてラッキーだった。


「おお、谷間出来た……」


 るんるんと騎士団の棟に入り、団長たちの執務室をノック。

 部屋に入り、いつものように掃除や雑務をこなしていたけど、団長の視線が煩い。

 ずっと目で追われてるし、気づいたら後ろに立っていたりして、心臓が止まりそうになった。


「もー! なんね⁉ なんか用ならちゃんと言わんね!」

「…………なんでもない……」


 団長が昨日から情緒不安だ。

 私は私で昨日ギャン泣きしてしまったから、人のことは言えないけども。

 いつも通りお昼の手伝いをしたり、団長たちにお茶とおやつを出したりして働いた。


 就業後、帰りの挨拶をするために団長たちの執務室に立ち寄った。

 お疲れ様と言って帰ろうとしたら、団長に右袖をちょんと摘まれて、引き止められてしまった。


「明日の約束を忘れていないか?」

「お? あ! 買い出しやったね!」

「……デート、じゃなかったのか?」

 

 しょんぼりとした顔で言われてしまい、胸もお腹もキュンキュンした。

 どうやら団長、楽しみにしていたらしい。

 とてつもなく可愛い。


「うん! デートデート!」

「ああ。カリナが、デートだと言っただろう? 明日十時に王城正門で待ち合わせでいいな?」

「はーい。十時やね」


 妙に私の名前を強調して言われた。まぁ、そんなところも可愛いじゃないか。




 部屋に戻り明日の服の準備をしてから、お風呂へと向かった。

 

 脱衣所で髪を乾かしていると、昨日のお姉様たちが詰め寄ってきた。

 ちゃんとブラは着けたわね。明日は休みだろう。団長とデートだろう。どんな服を着るのか。見合う服はあっただろうか。団長は王族なのよ。デートコースは。お金はあるのか。

 一斉に喋り出す。


「聖徳太子じゃないっちゃけん、いっぺんには聞き取れんばい!」


 ――――ん? いま、王族っち聞こえた?


「王族っち、なんね?」

「「そこから⁉」」


 またもや一斉に話され、なんとなく聞き取れたのは――――

 団長は王族の一人ではあるが、継承権は遥か遠く、現在は王家の人々を護る一族であること。

 副団長は、妾腹から生まれた第六王子であること。

 騎士団内には、かなり位の高い貴族の子息達が集まっていること。

 目指せ玉の輿!


 最後の言葉は、全員がガッツポーズで言っていたから、ハッキリ聞き取れてしまった。

 この世界の女子たちは肉食なんだな。


「頑張りなさいよ!」


 ――――おぉ、頑張るたい。


「一瞬でもチャンスがあれば押し倒しなさい!」


 ――――肉食やねぇ。


「ブチュッとカマシなさい!」


 ――――ちゅ、くらいやったら、イケるやか?


「寝技に持ち込みなさい!」


 ――――まてこら。


「はいはい、分かった分かったー。おやすみー」

「「絶対にわかってなーい」」


 これ以上は話が長くなりそうだなと思い、手を振りながら脱衣所から離脱した。



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