第3話 福岡県民、暴言を吐く。




 団長と副団長に大人だと告げるはめになった。

 団長は、凄く怒っている。

 私が嘘を吐いていたから、と。

 だってそうしないと、ここの世界では生きていけなさそうだったから。


「君が大人だと知られたら、どうなっていたと思う?」

「……どう?」

「男なんだぞ」

「はあ……」


 なにが言いたいのか分からずに、気の抜けた返事をしてしまった。


「身の危険を感じろと言っているんだ!」

「へ?」

「貴族とはいえ、飢えた男たちなんだ。何かあったらどうする!」

「いや、大丈ぶ――――」

「大丈夫じゃないから言っている! もう、君をここに住まわせるわけにはいかない」

「っ! …………はい」


 半年前から、いつかなにかあったときのために節制はしてた。だから、たぶんちょっとの間は暮らせる。

 新しい働き口探さないと。

 すぐに出ていきますと言わなければならないのに、声が出ない。喉が締まって苦しい。


「っ、ぁ……ぅ」


 ぽろりと涙が零れた。

 仕事上で泣くなんて、初めてだ。

 泣いても何の解決にもならないのに。

 相手にとっては迷惑なだけなのに。

 涙は止まらない。


「ロイ、お前……」

「は? お、俺が泣かせたのか⁉」

「な、ないでまぜんっ」

「「泣いてるが……」」

「だいでだいっ!」

「「えぇ?」」


 泣いてないって言ってるのに、二人とも泣いてると言う。

 袖でぐしぐしと目元を擦っていたら、団長に手首を握って止められた。


「擦るな。傷になる」

「っ、はい。ごめんなさい。……明日、出ていく」

「「は⁉」」

「荷物そがんないけん、大丈夫」

「大丈夫なわけあるか! 馬鹿者が!」

「っ! 怒鳴らんくていいやん! 馬鹿ぁ! 団長のばかぁぁぁぁぁ! ハゲェェェェ!」


 団長の膝上から飛び降りて部屋から飛び出した。暴言を吐き捨てながら。

 すれ違う人たちが驚きながらも避けてくれる。

 大丈夫かと声掛けしてくれる。


 ――――優しい人たちばっかりやもん!




 部屋に飛び込んで、大きなボストンバッグに洋服や少しだけ買っていた雑貨などを詰め込んだ。


「カリナ嬢!」


 部屋のドアが、外れた。物理的に。

 メギバキと木の扉が割れる音が聞こえて、団長が部屋に飛び込んできた。


「話は終わっていない。執務室に戻って来なさい」

「…………やだ」

「カリナ嬢!」

「やだってば! 出てくけん、ほっとってよ!」


 団長がフーフーと肩で息をしたあと、何度か深呼吸をした。

 備え付けのテーブルにダンと手を置くと、ゆっくりとイスに座り、正面に座るように言われた。

 ちょっと怖かったから、仕方なく従った。


「カリナ嬢、ちゃんと話し合おう。落ち着いて、俺にわかるように話してくれ」

「……出てく」

「はぁ……」

 

 団長がテーブルに肘をついて頭を抱えてしまった。


「誰も出ていけとは言ってない」

「住まわせないっち言ったやん。出てけってことやろうもん」

「っあ、そうだが……そうじゃない」


 はぁ、と大きな溜め息を吐かれた。


「意味わからん! 別の仕事探すからよかです。出ていきます」

「ならん!」


 怒鳴られて、ビクリと体が震えた。

 

「だ、団長? 何かあったんですか?」


 部屋の入口から数人の団員さんたちが覗き込んで来ていた。

 ドアが破られていたり、怒鳴り声とか聞こえたから心配してくれたんだと思う。

 ほらね、優しい人たちばっかりやん。


「……任務に、戻れ」


 低く唸るような声で、団長が命令した。それだけで、皆は敬礼して足早に去ってしまう。


「カリナ嬢、ここでは話が進まない。場所を変えていいか?」

「………………べつに、よかよ」


 ドアのない部屋じゃ、全部だだ漏れになってしまうから、渋々了承した。



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