第2話 福岡県民、バレる。





 朝バタバタと出勤の準備をして、執務室に飛び込んで挨拶。


「団長! おはようございます!」

「おー、はよぉさん」

「私もいますけどね」

「副団長も、はざまーす」


 挨拶が雑だとか顔面偏差値がパないヤツが小言をぶつくさ呟いているが、無視。

 団長にお茶を出し、ついでに副団長にもお茶を出し、各部隊へ御用聞きに走る。


「カリナ、おはよー」

「はざまーす! 何か用事あるね?」

「これ、いつでもいいから団長に渡して――――」


 部隊は七あって、ひとつは近衛隊と言って基本的に王城勤務になるので、騎士団の建物内にいるのは六部隊。

 そこを全て回って様々な雑用をこなしていく。


 今日は団長への急用はなかったので、手が空いたら食堂でみんなの昼ごはん作りを手伝った。

 平団員は食堂で、隊長クラスと団長たちは、自分の執務室で食べるのが基本だ。


「団長と副団長の用意できたぞ。頼むな」

「はーい」


 ワゴンを押して団長の執務室へ向かう。

 ノックをしてから、執務室の扉を開けると、衝撃の光景が飛び込んできた。


「ふおぉぉ⁉」


 副団長が団長のネクタイを解いている瞬間だったのだ。


「副団長が攻めなん⁉ 逆やと思っとったとに!」

「待て。何かよく分からなかったが、とてもよくない誤解が発生した気がする」


 ――――ち言うことは、やっぱり団長が攻めか!


「理解した」


 副団長がくるりと方向転換して、私の方に来ると、勢いよく後頭部を叩いてきた。どうやら、口から漏れ出ていたらしい。

それにしても酷い。

 物凄く痛くて涙が出てきた。


「ハンス! 子供を殴るな!」


 蹲って頭を抱えていると、団長が私を抱き上げてソファまで連れて行くと、膝の上に座らせて抱きしめながら、よしよしと後頭部を撫でてくれた。

 くんかくんか。いい匂いがする。


「大丈夫だ。もう怖くないぞ。痛かったな?」


 団長は、私のこと何歳だと思っているんだか。明らかに十以下の扱いなんですけど?

 まぁ、団長にお触りし放題だから黙っておくけども。


「団長……そいつ、私達に肉体関係があるとか言ったんですよ」

「ん? あぁ、最近巷で流行っているらしいな。そういう本が」


 ――――え? 流行っとんの⁉


 今度の休みに本屋巡りしてみようと決心していたら、青白ヒョロもやし副団長が余計な事を暴露してくれた。

 砕けた口調で。気だるそうに、髪をかき上げながら。

 仕草もイケメンだな、ちくせう。


「ロイ。いい加減に気付け。ソレ、いい大人だからな?」

「っ⁉ え? え⁉」


 団長が副団長と私の顔を交互に見ては、何度も「え?」と困惑していた。ちょっと可愛い。

 そして副団長の荒い言葉遣い、初めて聞いた。

 団長、呼び捨てしてるんだ⁉ これはもしかして、もしかすると?

 妄想が止まらないっ!


「カリナ?」

「へ? はい?」


 ゴクリと生唾を飲み飲む音。目の前で喉仏が上下に動いた。

 

 ――――エロい!

 

「もしや、十六歳を過ぎているのか?」

「……」


 大人のラインが低いな。私、そんなに幼いかなぁ?


「もっと上だ」


 おい、ヒョロもやし。どこまで気付いてるんだ。


「もっ、もっと⁉」


 で、団長は思ったより受け属性なんだろうか? 色々と情報過多だ。

 団長は私の頭を撫で撫でしながら、戸惑いの声を出し続けていた。


「カリナ……嘘を吐いていたのかい?」

「え…………」


 まさかの新たな切り口で来られるとは。

 浮かない表情で見つめられて、罪悪感がゴッポゴポと湧き出て来た。


「そ、そがんことはなかとですけど。その、ようとは聞かれんかったけんが……」

「で、何歳なんですか?」


 ――――ヒョロもやしぃぃ!


「カリナ?」

「っ! さっ……」

「さ?」

「三十です」

「「……」」


 耳鳴りがするほどに静かでっす。

 ヒョロもやしハンスの野郎は、何故か驚愕の顔をしている。

 ちょっとまて、お前もしやカマかけたのか?

 そして団長は、みるみるうちにありえないほど険しい顔になっている。まるで般若のよう。

 めっちゃ怖い。


「カリナ。いや、カリナ嬢」

「嬢⁉」

「三十歳、ということで間違いないんだな?」

「…………はい。ごめんなさい」


 団長に両頬を包まれた。

 

 ――――もしや、頭突き⁉


 来たる衝撃にギュッと目を瞑っていたら、どえらく低い声で「目蓋を開きなさい」と言われた。

 そろりと開くと、見たこともない険しい顔の団長に、体がビクリと震えた。


「カリナ嬢、ここは男たちだけが生活する場だ。それは理解していたよな?」

「え? はい」

「皆、君が子供だと思っていた」

「はい。ごめんなさい」


 ああ、怒らせてしまった。

 もうここにはいられないのかな。

 どうやって生きていこうかな。


 色んなことを考えながら俯いた。


「カリナ嬢、こちらを見なさい」

「はい」


 ――――ああ、最終通告だ。



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