4時限目 魔女の師匠登場?

「げっ……」


顔をわかりやすく引きつらせるエリに対して、秀也は何者なのかと警戒する。


「ああ、悪いね。そう警戒しなくてもいい……てなわけにはいかんよねえ。」


魔女の格好をした中年ほどの女性が声の方向には立っており、苦笑いしていた。秀也の警戒などには構わず、エリは慌てて魔女に言い返す。


「し、師匠には関係ないじゃないですか。誰を弟子に取ったって!」

「確かに関係はないさ。けど、人の弱みにつけ込んで、あんたそれじゃぁ、恐喝ってやつになっちまうだろうよ。あんたにヤクザのまねごとなんか教えた覚えなんてないんだけどねぇ、このバカ弟子。」

「……う、うう。」

「まあ、バカ弟子のことは置いておいて……私の自己紹介をしよう。そこのバカ弟子の師匠だった者だよ。名前は……まあ、 “結界の魔女”とでもお呼び。もし弟子入りして、会うことがあれば、改めて自己紹介をしようか。」

「……」


不審な目を向ける秀也。


「……いちおう、魔女名くらいは教えてあげたいんだけどねえ、だいたいの魔女は魔に関係しない者に自分の魔女名を伝えないっていうしきたりを守っているんだよ。悪いね、礼儀がなっていないのは許してくれよ。その詫びといっては何だが、なんで弟子入りさせようとしているかを、不肖の弟子に代わって説明してやるからさ。」

「ちょ……師匠!それはあまりにもひどいじゃないですか!だいたいですね、他の魔女の弟子勧誘に横から~~~……」


未だ解けていない警戒心むき出しの秀也に対して、魔女のしきたりを教えつつ、実利を提供する老魔女。老魔女の提案に抗議するエリ。秀也は少し考え、中年魔女の提案を飲むことにする。


「わかりました。 “結界の魔女”さん。説明お願いします。」

「ちょっ、鴻上くん!?女の子のプライバシーを侵害するのは、男としてどうかと……」

「うるさいねぇ、バカ弟子。 “全てを隔てよ”」

「っ……~~~~……」

「これでやっと静かになったねぇ。」

「……」


何か見えない壁がエリの周囲に展開されていた。その壁を(おそらく)喚きながら拳で叩いたり、炎をたたき込むエリ。必死なエリを横目に秀也の目の前に座った“結界の魔女”はエリが飲んでいたマンドレイク茶の残りを少し含み、目を瞑り風味を楽しんでいた。あまりにも現実離れした事象を目の当たりにした秀也は呆然とするしかなかった。


「まったく贅沢品を……さて、鴻上とやら……エリの話だったねぇ。」

「え、ええ。」

「ん?ああ、これは無視して良いよ。隔絶結界と言ってね、外界への干渉を防ぐものさ。いくらエリでも私の結界から出るには半日はかかるだろうね。」

「……そ、そうですか。」


この瞬間、秀也は目の前の“結界の魔女”を敵にしないようにしようと固く決意した。


「本題だけど、まどろっこしい例外とかはすっ飛ばすから楽にしてお聞き。まず、魔女、魔法使いってのはねえ、魔力を扱えるのが最低条件、次の条件として審査に受かる、てのがあるんだよ。ここまでは単純明快。ただし、単純故に難しい。鴻上とやら、あんた魔力を扱えるかい?」

「……いえ、全く使えません。」

「ああ、そうさ。扱えたら、魔法使いだもんねぇ。じゃあ、扱えるようにしないといけない。そこで徒弟制度や学校ってのがあるわけさ。そうだねぇ、徒弟制度は昔の武道の修行を思い浮かべればわかりやすい。学校ってのは、イギリスの眼鏡をかけた坊やと仲間たちのお話に出てくるお城みたいな魔術学校を思い浮かべてくれれば良いさ。」

「……なるほど。」


頭の中にイメージが湧く、実にわかりやすい説明であった。


「そこで指導を受けるなりしている間は、見習いとか学生とか言われるわけだ。さて、ここからがこの間抜け弟子の話さ。まず、質問だ。見習いに誰が教えると思う?」

「……魔女とか魔法使いの方々ですか?」


“結界の魔女”の質問に対して、疑問符付きで答える秀也。


「ああ、そうだ……といいたいんだけどねぇ、ちょっと違う。

むかし、実力が低い魔女たちが教えたら、ひどい魔女しか生まれなくてね……これが魔女狩りの由来だったりするんだが、この後ろめたい過去から、我々魔の者たちは教育制度を作ったのさ。それが、学校の創設や徒弟制度の導入、そして教員試験制度の導入、とはいえ高い水準をクリアしているか、という試験なんだけどね。他にも条件はあるものの、これらの条件をクリアした魔女や魔法使いが教員免許を交付され、弟子や見習いを教える。これが現在の魔術界の教育制度となっている。」


説明を受けると至極まっとうな内容であったが、秀也にはなんとなくの疑問が湧くと同時に、話の中心がなんとなくわかった気がした。


「……いろいろと歴史があるんですね。ところで質問なんですが、免許っていうと……もしかして更新制、とかだったりします?」


『パリン』


疑問を口にした途端、何かが砕ける音がする。


「……勘の良いガキはきらいだよ」


同時に結界を破り苦虫をかみ殺した顔をしたエリが、声を絞り出す。その言葉にため息を吐きながら“結界の魔女”が突っ込む。


「あんたもガキだろう、バカ弟子。……それよりもあんた、なんで“破魔石”なんて貴重なもん持ってんだい?」

「……師匠がいつ来て私を閉じ込めるかわからないから、服に装備していたんだけど……装備したことを結界破る直前まで忘れてた。」

「……本当にバカ弟子が。昔から自分の装備品を忘れるなって言ってるだろう?まあいい。だいたい話し終わったからね。鴻上とやら、ホントに勘が良い。免許は更新制でね、条件がいくつかあるんだよ。例えば、腕は鈍っていないかとか、理論を正確に覚えているか、とか。もちろん、ここで落とされるやつもいるがこのバカ弟子に関して、それはない……。もしもあったなったら私がもう一度たたき込む。」

「ヒェッ」

「条件の具体例はこの辺にして……一番最初に書かれている条件がある。それは、『直属の弟子がいる、または規定回数の授業を行なう』このバカ弟子にとって最も難関な条件さ。」

「…………は?」


途中エリの方から変な悲鳴が聞こえたが、気のせいだと思うことにして“結界の魔女”の話に聞き入っていた秀也は最後の言葉が理解できず、間抜けな声を出すしかなかった。

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