3時限目 魔女からの提案は気をつけましょう
出された食事のおいしさに感動しながら、スプーンとフォークを動かす秀也。味について疑問に思ったことを秀也はエリに訊ねる。
「……これってブタの味するけど、見た目は手羽だよね?ブタなの、トリなの?」
「あ、これね。これ魔法界の珍味の1つなんだよね。食感とか見た目は大きめのトリの手羽、だけど味はブタというね。もともとは羽の生えたブタなんだけど、やっぱり重さを支えるために筋肉質になったのか、食べがいがあっておいしいんだよねぇ。」
「……羽の生えたブタか。見てみたいもんだな。」
「まあ、家畜化は失敗してるから狩りが主体なんだよねぇ。まあ、イノシシを家畜化したのがブタだから、野生に戻ったブタはイノシシになるはず、なんだけど……そこも含めて珍味ということで。」
「……なるほど。」
魔法界の謎を垣間見える話を聞きながらの食事も、味がよかったため、わずか10分で秀也の目の前の皿は空になった。
「さてと……何があってこんなところに迷い込んだのかな?」
「……少し重い話になるぞ。」
そう一言断ってから、母が早くに亡くなり父子家庭であったことから相続放棄に至るまでの経緯について語る。
「……というわけだ。」
「……思ってたものの100倍重い内容だったねぇ。まずはご愁傷様。ところで今後どうするつもり?」
「……何も考えつかない。おそらく高校をやめて……適当に食いつなぐとか……か?」
「……なるほど、ノープランなのね?じゃあ、私から提案がある。」
エリは一呼吸入れると、本題に入った。
「私の弟子になりなさい。」
「……はい?」
「いや、私の弟子に……」
「いや、聞こえてはいる。が……何言っているんだ?」
「いや、だから、私のでs……」
「だから、提案は聞こえてる。なんでそうなるんだよ?てか、弟子ってなに?」
「へ……?あ、そうか……いや、でもそうはいっても、弟子になって、と言っているだけだけど?」
「何の弟子だよ?」
「魔法使い。」
「マホウツカイ?」
あまりに突拍子のない提案に秀也は棒読みの疑問形で復唱する羽目になる。そんな秀也にお構いなく、エリは待っていましたとばかりに早口でまくし立てる。
「そうそう、私のような魔女の男版!まあ、最近は魔法界でもジェンダー平等が謳われているから、呼称を変えようという動きもあるけど、そこは本質じゃないから話を飛ばすよ。だって、男だろうが女だろうが、認められるのに性差は全く関係ないからね。で、魔女や魔法使いになる方法は魔法界で決められているわけ。その中の一つが徒弟制度。私が師匠であなたが弟子。生活の面倒を見るから、あなたは私の教えを受ける。そして、数ヶ月……もしくは数年後に試験を受けて合格なら晴れて魔女や魔法使いとして登録されるのさ。どうだい?」
一気にまくし立てるエリは期待するような目で秀也を見る。
「……いや、おれ普通の人間でいいんだけど?」
「そうはいわずにさ!ここには開いてる部屋もあるし、もしイヤなら、ここの半径200メートルくらいは空き家だし、安全に使えるよ?それに、魔法薬とか作れるようになれば、お金稼げるし、いいことづくめだと思うよ?」
「……いや、高石さんにそこまで、迷惑をかけるわけには……」
「高石さんじゃなくて、エリでいいよ。いや、迷惑だなんていいんだよ?困っている人がいたら助ける、それが当たり前じゃん。門下生の承認さえされれば、今からでも魔法薬の販売ができて生活費の足しになるだろうし、魔法使い登録をすれば、副業にもちょうどいいんだよ。だから、お試しでもいいから、弟子になってみない?」
早口でまくし立てるエリ。とても魅力的な提案である。しかし、うまい話には何かしらの裏があるのが世の常というもの。特にエリの様子に対して違和感をぬぐえない秀也は、疑問をぶつける。
「……高石さんさ、なんか必死すぎじゃない?」
「え、いや……そ、そんなことないよ~」
秀也からでた言葉に挙動不審になるエリ。わかりやすい反応に対して秀也はあきれてしまう。
「……何を隠してるの、高石さん?」
「か、隠し事なんてないよ?」
「なんで疑問形なの……」
挙動不審になっているエリ。秀也はどうしようもないとあきらめたとき、
「なるほどねぇ、バカ弟子。あんたの考えそうなこった。」
老婆の声が部屋に響くとともに、突如背後に気配がわき、エリの顔がわかりやすく引きつった。
「げっ……」
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