第零伝:乳児期~転生後の世界~
一話 命の綱を辿って
「まだ生まれぬのか!」
「
「クッ! 長子は獣が憑き、昨年は母上が病で身罷られたというのに、これでサキや産子にまで何かあればいくら貴族位とはいえ、我がトール家は凶事の続く一族として皇京から追放されかねんぞ!」
焦燥を募らせている二十代半ばの男、
「申し上げます! 出産の儀は終わったようです! サキ様はご無事! ......ですが赤子は産声を上げないとのこと」
「第三子は魂魄を
この世界では出産が母子ともに無事に終わる確率は決して高いものでは無いことは誰もが知っている。
既に二人出産した経験はあるものの、妻のサキは初めての死産に酷く落ち込むことだろう。
ヨリツは自分には何もできなかった悔しさから深い溜息をついた。
「申し上げます! 御当主様が赤子を連れて騎獣で飛び去ったとのこと!」
「な、なんだと!? 親父殿は一体何を考えておるのだ!」
空を駆ける翼の生えた虎に跨る老人。
その片腕には先ほど産まれたばかりの赤子が抱かれていた。
「まだだ。お前は絶対に死なせんぞ......」
老人の名はミチザ・トール。トール家の現当主にしてこのヒノ国朝廷の
「ワシは生まれるはずじゃった娘も病に苦しむ妻も救えんかった。じゃが、お前だけはこのワシが現世に還してみせるぞ」
ミチザは未だに産声をあげない赤子を優しく抱きしめながらも強い口調で語りかけ続けた。
「そろそろアラシ山の頂上じゃな。アレか。ドーマンのヤツが申しておった神降ろしの儀の斎場は。よし。ちと行ってくるのでコゲツは離れておれ」
山の頂上は切り開かれ、檜で出来た舞台のようなものが設けられている。
眼下に目的地を見据えると、乗っていた翼の生えた虎、
「降り立って初めて分かったが、この場の命素は濃過ぎる。それに供えられた魔石もここまで大きいモノとは。一体どんな魔獣から取り出したのやら......」
檜舞台の上に設けられた祭壇。そこには榊や
「神降ろしの儀を用意した連中には悪いがこの場を使わせてもらうぞ。ワシの孫の命がかかっておるんでな」
ミチザは赤子を祭壇の上に寝かせると懐の巻物を取り出し広げて
「≪掛けまくも
祝詞を唱え始めると段々と祭壇の上空が暗雲に包まれ雷鳴が轟く。
ミチザが行っているのはトール家の当主に代々と受け継がれる魔法の中でも禁忌とされる
人成らざる神の力によって術者に力を与える儀式魔法である。
祝詞を三度唱え終わると巻物を懐に戻す。
次に祭壇の魔石に左手を乗せ、右手で天に赤子を掲げた。
「≪我が孫の魂魄を現世に還し給え!!≫ -
魔石を媒介に魔法を発動するとミチザの身体から大量の魔力が真上に向かって溢れた。
周囲の木よりも高いその魔力の柱を目掛け黒雲から轟雷が落ちる。
瞑目が意味のない程の白。大気を切り裂き天や地に響く轟音。祭壇や斎場だけでなく周辺の木々も吹き飛んだ。
アラシ山から少し離れた皇京イアンにもその地響きが轟いたという。
■ ■ ■
「だぁ~。あぇ~。わっ!?」(ん~。あの光はなんだったんだろう。うわっ!? )
気付くと俺の目の前にはボロボロな老人の顔があった。
皺のある厳つい顔立ちに喉元が隠れるほど伸びた髭。顔は黒い煤や砂で汚れ、ところどころに火傷のような痕があるが、その表情はとても晴れやかな笑顔で不思議と怖さはなかった。
「ぶわっはっははははは!!!! 極楽か冥府か
これが俺の今世で最初の記憶。
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