セイデンキ‐異世界平安草子‐
蘭桐生
プロローグ 再出発
俺は
三十歳を迎える今日。自分の人生を再出発するキッカケを求めて登山に初挑戦している。
運動不足の身体で息切れしながらも山頂を目指して一歩一歩踏みしめていく。
既に周りの景色を楽しむような余裕はなく、ただ只管に無言で歩いていると、これまでの人生が想起される。
子供の頃は天才だと持て囃されるほどに勉強が出来た。
おかげで中高一貫のエスカレーター方式の名門学園に入れたが、それに胡坐をかいて特に何もしなかったのがいけなかったのだろう。
だんだんと学力は他の学生と差がなくなっていき、高等部をギリギリで卒業する頃には最底辺になってしまった。
十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人。
俺の場合は只の人どころか、高等部をなんとか卒業した後に就職に失敗し、心が折れてからはずっと引き籠りになってしまったワケだが。
そんな俺を無関心ながらもずっと養ってくれていた両親はつい先月、経営していた会社が倒産したことで心中してしまった。
遺書には「私たちはもう疲れた」とだけ書かれていた。
俺がおちこぼれにならなければ......。まともに働いていれば......。両親は倒産したくらいで死なずに済んだかもしれない。
後悔の念からその日は一日中泣き腫らした。
後を追うことも考えたが、どうしてなのか死ぬよりも真っ当に生きることが二人への償いになると思い自殺は選択肢から外した。
不要な家財や自室のフィギュアコレクションなんかを処分したお金で慎ましいながらも二人の葬儀を済ませた頃には、三十歳の誕生日が間近に迫っていた。
人生の再出発の第一歩として一つでいいから何かを成し遂げたいと考えた俺は登山を選んだ。
特に登山に対して思い入れがあったわけではないが物理的に乗り越えることで達成感が欲しかったのだと思う。
ネットで初心者向けだが難易度は高めの山を探し、目的地を決めた後はすぐに準備を整えて向かった。
そして今、山頂が目前に迫っている。
いつの間にか天候は悪くなってきているようだが、景色を楽しむのではなく登頂が目的のため構わず登り続け、俺はついに山頂に到達した。
「やった。俺でも出来るんだ......」
心の底から歓喜が湧き上がろうとしたその瞬間————
視界が真っ白に染まるほどの光と耳を劈く轟音、身体が吹き飛ばされるような衝撃を感じた。
それが俺の前世で最期の記憶。
――――――――――――――――――――
あとがき失礼します。
本作は基本的に主人公の一人称視点で展開していきますが、主人公が傍に居ない場合(閑話など)は三人称視点で展開します。
読みづらいかもしれませんが本作をお楽しみいただければ幸いです。
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