調査の結果
「終わったんですの?」
男の体がぐったりした瞬間、パメラは魔法で残りの人員をあっという間に眠らせた。
アレクシスは男の様子を見て頷いた。
「再び目覚める気配はありません。〈気力斬り〉がまともに通じれば一日程度は意識を取り戻すことができないでしょう」
「助かりました。それじゃあ早速調べてみましょう」
念のためパメラは〈将軍〉を維持したまま男に近づいた。
アレクシスはひざを曲げて男の体を調べた。服や持ち物から情報を得るために。
やがて見つけたのは貴族家の印章が刻まれた小さなメダルだった。
「これは……」
アレクシスはそれを見て眉をひそめた。後ろから身をかがめてのぞき込んだパメラも同じ表情だった。
どの家の紋章かは知っていた。パメラは知らないはずがなく、アレクシスも歴史知識として学んだことがあった。少なくとも今の世代の貴族なら、この紋章が分からないはずがない。
アレクシスはパメラを振り返った。
もしかすると自分が間違っていたのではないかと思い、パメラの反応を通じて確認しようとしたのだった。パメラなら決して見間違えるはずがないから。
パメラも彼の本音を理解したから言った。
「テリベル公爵家の紋章ですわ」
「やはり自分の勘違いではなかったのですか」
それはテリベル公爵家の人であることを証明するものだった。家の一員は疎か、下女や執事、庭師のような使用人に至るまで、テリベル公爵家との縁が一回性でなければ誰にでも支給された品物。テリベルの庇護を受ける者であることを証明する証だ。
当然、テリベル公女ティステの生まれ変わりであるパメラが気づかないはずがない物だ。
見違えるどころか、単純な知識としてテリベル公爵家の紋章を知っているだけのアレクシスよりは多くのことを知っている。
「これは使用人用メダルですわね。テリベルのメダルにはいくつかの等級がありました。公爵家の一員といっても現当主とその直系は傍系血統とは異なり、使用人も地位と役割によっていくつかの分類がありました」
「これはどんな使用人のメダルなのですか?」
「一言でいえば専門要員、ってことでしょうか。情報収集や裏工作のような仕事を引き受けた者のメダルですの。ただし……」
パメラは指をさっと動かした。彼女の魔力が男の覆面を脱がせた。
男の顔を確認したパメラは眉間のしわをさらに深めた。
「知らない顔ですわね」
「このメダルを持った者たちを覚えているのですか?」
「いいえ」
パメラは手を差し出した。アレクシスはその動きの意味に気づき、メダルを彼女に渡した。
メダルを細かく見ながら、パメラは先ほどの言葉に付け加えた。
「テリベルのメダルを持った者たちの顔くらいは全部覚えていますの」
よく顔を合わせる者から、年に一度会うか会わないかの者に至るまで。テリベルのメダルを持った者たちをティステは全部覚えていた。その記憶を受け継いだパメラもまた、一人も忘れなかった。
「もちろん前世の私が死んだ後、テリベル公爵家が滅ぼされるまで少しの時間がありました。その間に新たにメダルを支給された者なら私が知らないかもしれませんけれど……」
パメラはメダルの痕跡を確認したり、肉眼では見えないものを魔法で検査したりした。
そのようにしばらくチェックした後、ようやく確信を得た。
「これは少なくとも二十年以上のメダルですもの。テリベルのメダルはそれ自体が家柄の身分の証のように活用される物なので、リサイクルはしません。決して当事者の魔力に合わせて製作をします」
「ということは……」
「前世の私が死ぬ前に授与されたメダルですの。私が分からないはずがありません」
もちろん反乱を起こして余裕がなくなり、既存のメダルを再使用した可能性もあるだろう。
しかしパメラはその可能性がほとんどないと判断した。そもそもテリベルのメダルは自分の人を確実に確認するために公爵家で代々使われたもので、ティステの父親は特にそれを積極的に活用した。
反乱を起こしたなら当然、人を活用した戦いも激しくなる。そのような状況で自分の人であることを証明できる手段の管理を怠る? テリベル公爵はそんなバカげたことをするような人ではなかった。
「それにメダルは個人の魔力に合わせて製作されたものですので主人と共鳴します。ですけどこのメダルはこの男の魔力に反応しないんですわ。それに、この男は前世の私が死ぬ前の使用人というには若すぎますもの。……けれど、このメダル自体は本物です」
「ということは……」
「テリベルが滅ぼされてからこのメダルを確保した誰かがいたり、あるいはテリベル公爵家の勢力の生存者がいたり。どっちにしても、このメダルを利用しようとした者がいるってことでしょう」
アレクシスの表情は険悪になった。
テリベルのメダルを利用する。今の時点でそれを活用するような方法は多くない。テリベル公爵家そのものが消え、その名に権力の代わりに反逆の罪だけが残った以上、テリベルの権力や遺産を利用することはできないからだ。
しかし、利用しようとするのがテリベルの力ではない立場なら話が違う。
「テリベル公爵家の残党が暗躍すると誤解させるためですか?」
「十分ありそうな可能性だと思いますわ。こんなに簡単に制圧されたのもそうですし」
単にパメラたちを過小評価した可能性もあるが、パメラにはどうしてもわざと弱い者たちを配置してやられるように誘導したように感じられた。
「私が平凡な皇女でしたら、このメダルを見て彼らがテリベル公爵家の残党だと思ったでしょう。それこそ相手の狙いかもしれませんもの」
「十分可能性のある話です。ただし、確信できる証拠はまだありません」
「そうですわ。今のところ確言する段階ではないでしょう。ただそのような可能性がある、くらいで整理すればいいと思いますわ」
そう思いながら、パメラはメダルをポケットに入れた。
これから忙しくなると思いながら。
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