パメラの対応

「ふざけんな!」


 正面の男が叫んだ直後、彼らの状態が変わった。


 隊列はそのまま。しかし攻撃と補助など多様だった魔法が変わった。


 ――強化魔法〈愚者の便宜〉


 全員の魔法が正面の男に集中した。身体能力と魔力を大幅に強化する魔法だった。同じ魔法を全員が一人に重ねると男の力が急激に膨らんだ。


 男とパメラの剣が激突し、尋常でない爆音が爆発した。男の強い筋力と魔力がパメラを後ろに押し出した。


 パメラは眉をひそめ、左右の敵をちらりと見た。彼らはすべての魔力を〈愚者の便宜〉に集中しており、そのために他の行動を取ることはできずにいた。


 だがすべての力をそれ一つだけに集中しただけに、正面の男の力を増幅させることだけは強力だった。


 判断を終えたパメラは〈近衛隊〉に指示を出した。八本の魔剣のうち四本は左右に散開した者の行動変化を警戒させ、残りの四本は正面の男を相手に動員した。


 男の剣術は単純だが抜け目がなかった。そこに魔法で強化された筋力と圧倒的な魔力が合わさると、魔法で強化されたパメラの力でも耐えられなかった。パメラは力と勢いに押されて後ずさりし、〈近衛隊〉の補助を受けてやっと互角で男の剣を弾いた。


 互角といっても、正確には後ずさりすることなく男の攻勢を防御できるようになっただけ。どうしても逆襲の機会をつかめずにいたが、男の方もただの愉快な状態ではなかった。


「これを互角に受け止めるとは、本当に化け物なのか?」


「失礼ですわ。皇女なんですもの」


 パメラは適当に対応しながら状況について考え続けた。


 単に今の敵を吹き飛ばすだけなら特に難しくない。彼らから感じられる魔力や術式の精度、展開速度などを見た時、パメラが心から強大な魔法を浴びせるならば直ちに終わらせることができる水準に過ぎない。


 しかし場所が問題だった。そんな強大な魔法をむやみに使ってしまっては洞窟が完全に崩れてしまうから。今も無理に破壊して広げた坑道をパメラの魔法で支持している状況なのに、そんなことをしては皆が生き埋め一直線だ。


 もちろん、そうなったとしても何とか生き残る方法はある。だがそんなことをすれば後始末が面倒になる上、侯爵領にも迷惑だ。そしてパメラ自身とアレクシス程度ならともかく、あちこちに散開している護衛や侯爵たちなど他の人々が巻き込まれたらパメラの能力では手に入らない。


 地形全体を吹き飛ばさない限度内で、どうやって今の状況を打破するのか。パメラが悩むのはその部分だった。


 結論は意外とすぐに出た。


 ――用兵魔法〈十字砲火〉


 パメラの左右に並んだ魔法陣が男を照準した。発射された魔剣の弾幕が男を襲った。


「うむ!?」


 男は俊足で後ずさりした。弾幕の半分以上はそれだけで避けられ、あとは男の剣が素早く動いて全部迎撃した。


 本来のスピードと威力だったら、あんなに避けることも迎撃することも不可能だっただろうが、やはり抑えられた性能では十分ではないようだった。


 しかし、瞬間的に距離を広げるほどの使い道はあった。


 ――魔剣魔法〈三門獄壁〉


 三つの魔剣が床に突き刺さった。それらから圧倒的な冷気が湧き出た。あっという間に構成された三重の氷壁がパメラと敵の間を遮った。


「生半可だ!」


 正面の男が咆哮しながら突撃した。一撃が最初の氷壁を破壊し、後に続く三連続斬撃が二つ目の壁を粉砕した。


 剣を持ったまま大量の魔力を集中させ、男は自信満々に叫んだ。


「勝つ!」


 強力な一撃が最後の壁を壊した。


 関門を突破した男は遅滞なくパメラへと突撃した。勢いよく振り回される剣がパメラを狙った。


 もちろん、パメラは氷壁が壊れる間じっとしてくれるバカではなかった。


「時間稼ぎ用の壁を壊した程度で意気揚々としているなんて。底が見えるわ」


 パメラは用意しておいた二つの魔法を同時に起動した。


 床に突き刺さっていた魔剣から再び氷が噴き出した。ちょうどそこを通り過ぎようとした男が急速に氷に閉じ込められた。


 そもそも〈三門獄壁〉の本体は氷ではなく魔剣。壁が破壊されても魔剣さえ無傷ならいくらでも再使用が可能で、他の氷結魔法への応用も可能だ。


 そのように閉じ込められた彼を、大きな魔法陣が照準した。


「ふぅっ!」


 男は気合で氷を破壊した。ほんの少し遅れてパメラの砲撃が放たれたが、男はギリギリ横に跳躍して避けた。


「つまらない時間稼ぎだ」


 男はパメラをあざ笑った。その答えはすぐに返ってきた。


 男の後ろから。


「そのつまらない時間に敗北した貴様はつまらない刺客だな」


「!?」


 男が振り向くより、強い衝撃が彼の脇腹を強打する方が少し早かった。


「ぐぅっ……!」


 うめき声をあげて振り返った男の目に、アレクシスの姿が映った。


 男はちらりと視線を向けた。アレクシスが相手にしていた者たちは全員拘束されたまま倒れており、そちらを隔離していた防御膜も消えた。


 男の顔に焦りが浮かんだ。しかしそれは絶望とは違った。


「たかが騎士見習いなんかを待つ時間稼ぎなど、ないに等しい」


 アレクシスは男の猛攻を落ち着いて受け流した。


 強化魔法は健在で、身体と魔力のスペックは男の方が上。剣の腕も騎士見習いのアレクシスに劣らない。


 しかし、アレクシスは的確できれいな氷の魔法で肉弾の劣勢をカバーした。むしろ男の方が抜け目を見せないようにアレクシスに集中しなければならなかった。


 それは反対側のいい抜け目だった。


 ――破魔魔法〈純粋への回帰〉


 アレクシスが男を相手にしている間、パメラは複雑な魔法陣を描いた。そして魔力を注ぎ込むと、明るい光が空洞全体を照らした。


 その光が男を強化していた〈愚者の便宜〉を消してなくした。


「なっ!?」


 瞬く間に元の力に戻った男に向かって、アレクシスの剣が稲妻のように走った。


―――――


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