新しい敵

 パメラの魔法が瓦礫の向こうに声を深く伝えた。どこにいても、鉱山がある山の内部ならどこでも聞けるほどの範囲だった。


 だが相手の答えは、予想通りというか、全くなかった。


「……やっぱり」


 パメラが低く呟いた瞬間、また魔弾が飛んできた。今度はパメラの正面だった。まるで言葉の代わりの答えだと言うように。


 パメラは鼻を鳴らし、魔弾を指で正確につかんだ。


「いいですわ。誰だかわからないけど、引きずり出してしましょう」


 パメラの指に展開された魔法陣が魔弾を抑えた。本来なら触れた瞬間どんな形であれ効果を発揮して消滅する構造のようだったが、パメラの魔法がそれを防ぎ魔弾の原型を維持させた。


 すると四方から相次いで魔弾が飛んできた。まるで慌てたように。


「ふん」


 しかし、パメラの防御魔法がそれをすべて防いだ。


 その間にもパメラは捕まえた魔弾を詳しくのぞいてみた。構成する術式も、魔力も全部。


 しばらくしてパメラの顔に笑みが広がった。


「ふふ。なるほど」


 パメラの前方の地面に複雑な魔法陣が描かれた。


 ――召喚魔法〈暴君の呼び声〉


 魔法陣が輝き、三人の人間の姿が現れた。


 アレクシスが相手にしている者たちとは異なり、黒い服装と覆面まで典型的な怪しい者の姿だった。


 魔弾を分析して魔力の波長と術式を解釈し、それを逆算して射撃者の位置と存在を捜し出した後、強制的に対象を呼び寄せる召喚魔法で仲間まで一度に引き出したのだ。


「生半可な者たちは顔を出したのに、いざ徹底的に隠れていた者たちが顔を隠すなんて。面白い人たちですね」


 パメラは嘲笑しながら魔法陣を描いた。現れた者たちは直ちに散開した。


 パメラの魔法陣から鎖が飛び出して彼らを狙ったが、彼らは立体的な動きで避けて距離を置いた。そのうちの一人がアレクシス側を隔離する防御膜に短剣を投げたが、防御膜は壊れなかった。


 パメラはアレクシスの方をちらっと見た。すでにそちらの身元不詳者四人のうち三人は制圧され、最後の一人に攻勢をかけていた。先ほどの魔道具で〈空結の監獄〉を破壊した者だった。


 相手の実力は他の者と大きく差はなかったが、さっきの件でアレクシスの方が彼を注意深く警戒していたため、少し長くなったようだった。


 パメラがそちらを確認する短い瞬間にも新しい者たちが魔弾や短剣投擲でパメラを攻撃したが、パメラはそのすべてを難なく防いだ。


 パメラも自分を狙う者たちに視線を向けた。


「貴方たちは誰ですの? 誰の頼みでこんなことをするんですの?」


 彼らは返事の代わりに魔弾を撃った。さっき瓦礫の向こうから飛んできたのと同じ術式だった。


 パメラは魔法のこもった視線でその魔弾を全部霧散させた。


「いいですわ。話す気がないなら、つかまえて無理やり口を開かせてあげましょう」


 ――用兵魔法〈将軍〉


 赤いコートがパメラの肩にマントのようにかけられ、赤い将校帽が彼女の頭にかぶせられた。カーライルの件以来初めて使う彼女の独自の魔法だった。


 不審者たちは魔法で剣を作った。さっきの身元不詳者たちと違って、魔道具を使わない純粋な魔法だったが、感じられる魔力はむしろこちらの方が上だった。


 彼らのうち一人が正面から飛びかかり、残りの二人は距離を置いたまま左右に散開した。


 ――魔剣魔法〈ゼノンの刃〉


 それに対抗してパメラは魔法で魔剣を形成した。〈ゼノンの威圧〉と同様に生命を切らず物質と魔法だけを破壊する魔剣だった。


 正面の男とパメラの剣が激突した直後。左右に散開した者たちが攻撃魔法をパメラに浴びせかけたり、バックアップのための魔法を男に集中した。パメラは剣で男の剣撃をすべて受け流しながらも魔法陣を展開し続けた。


 激しい戦いの中でも、パメラの頭は速く回していた。


 この襲撃の目的と意義は何なのか。


 もし侯爵が関係しているなら、いったい何を得るのか理解できない。少なくともパメラが見るには損しかない行動だから。


 侯爵が関連していなければ少なくとも動機と意義については少しはマシだが、そちらは方法論が問題だ。侯爵が警備を無駄にすることもなかっただろうし、パメラが見ても警備水準が足りないわけではなかったからだ。


 一方、正面でパメラと剣を競い続けていた男が焦りを吐き出した。


「ちっ、早く倒れろ!」


「あら、どうして私にかんしゃくを? 貴方が弱いのが問題なんでしょう」


 簡単な挑発に男は露骨に不快感を示した。しかし剣術や魔法は全く乱れなかった。パメラはその点に少し感心した。


 ――用兵魔法〈近衛隊〉


 自由に飛び回る八本の魔剣がパメラの傍に現れた。目の前の男を攻撃したり、左右の敵が発射する魔法を迎撃したり、一部は左右の敵に飛んでいって斬撃を放ったりもした。


 もちろん、今回の敵は甘くなかった。


 ――岩魔法〈大地の蛇〉


 正面の男が魔法陣を描いた。パメラの足元が揺れ始めた。底を成す岩が動いてパメラの足場を不安定にし、岩自体が巨大な腕のような形状になってパメラに飛びかかったりもした。


 だが、そのほとんどは〈近衛隊〉の魔剣が自由自在に動いて迎撃し、目の前の男はパメラ自身の剣に直接追い詰めた。


「くっ……どうして幼い皇女なんかがこんなに強いのだ?」


「さぁね。貴方が弱いだけかも知れませんもの」


 平然としながらも、パメラは剣先で魔法陣を描いた。複雑な魔法陣が正面の男を照準した。


「どうせ自白するつもりはないようですから、慈悲は施しません。覚悟を」


―――――


昨日更新できなかった方を今日更新することにしたのですが、パソコンの修理が遅れて作業が間に合わずにしまいました。

今日は1話だけ更新して、来週の火曜日に補足更新をしたいと思います。

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