動きの始まり

 もちろん、何も考えず笑ってばかりいる状況ではなかった。


「で、どうやって気づいたんですの? 私はまだ何も感じていないんですけれども。瓦礫に残っている魔法のため、探索魔法も機能が劣っている状況です」


「自分の適性を応用しました」


 アレクシスの言葉にパメラは納得して「へぇ」と声を流した。


 アレクシスの適性は『霊氷』。主に氷と冷気を扱うから名前に氷が入るが、その本質は魂の力を扱うこと。魂のエネルギーを持ってきて特殊な魔法を使うだけで、魂そのものを扱うわけではないが、ある程度は索敵などにも使えるというのだろうか。


 アレクシスはパメラを振り返った。


「どうなさいますか?」


「相手の様子はどうですの? あからさまに気づいたという様子をこっちから出していますから、あっちでも何か反応しそうですの」


「今のところは特に変わったようには見えません。自分の索敵能力では一挙手一投足を詳しく知ることができるわけではありませんので確かではありませんが……少なくとも魔力の気配を見たとき、何かをしているようには見えません」


「……ふーん」


 パメラは唇に指を当ててしばらく考えてからまた言った。


「護衛の方々はどうしているんですの?」


「物理的な距離は身元不詳者たちに近いです。ですが対応を取ってはいません。護衛たちが彼らと内通するのでなければ、おそらく彼らの存在自体にまだ気づいていないのでしょう」


[自分の『霊氷』では生きている存在の気配を探知することしかできません。崩壊した坑道が現在どうなっているかまではわかりません。護衛たちと身元不詳者たちの間を崩れた瓦礫が遮っているならば、今パメラ様の魔法が制限されたように護衛たちも探知に困難があるでしょう]


 肉声の言葉に続き、魔法を通じた隠密な通信が続いた。


 あえて混用したのはこちらがこっそりと意思疎通が可能だということを知らせず、こちらが知っている情報が実際よりもっと狭いと誤認させるためだろう。パメラはその判断が気に入った。


[今私たちがどうすればいいでしょうね?]


[護衛に状況を知らせて動くことができれば一番よろしいのですが、その伝達手段がないのが問題です。ですがこのまま待つとしても状況が好転するというとは断言できません]


[一応動いてあっちの反応を見たいですわね。できますの?]


[危険の可能性があるので引き止めたいですが……今は受動的に待つことも、積極的に動くことも、不確実性は似ているでしょう。動いてみるのもいいと思います。ということで方向のことですが]


 アレクシスは三つの提案をした。


 一つ目は脱出を狙って移動すること。二つ目は護衛たちと合流する方向に行くこと。三つ目は身元不詳者たちに向かって一直線に突撃すること。


 相手がいかに具体的な手段でこちらを監視しているかはわからない。それを調べることまで含めて、相手の反応を確認できるだろう。


[一直線に突撃するのも面白そうですけど、相手の狙いと強さが不明な今は下手にそういう方法はとれないですわね。護衛たちの安否も確認すべきですから合流する方向に行きましょう]


[かしこまりました。具体的な位置は確認しておきました。ちょうど護衛たちは瓦礫を片付けながらパメラ様と合流するために動いているようですので、こちらがそちらに向かえばすぐ合流できるはずです。相手がそれを止めたければすぐ動くでしょう]


 護衛たちとはいえ、皆が一塊だったわけではない。アレクシスはばらばらに散らばった護衛の中で最も近い人がいる方向を指差した。


「そろそろ脱出する道を探さなければならないようです。もともと我々が来た道があちらの方向でしたので、一度あちらに行ってみた方がいいと思います。多分あちらに閉じ込められている護衛もいると思います」


「まずは合流した方がいいでしょう。わかりました。そうしましょう」


[引き続き監視してください。あっちが攻撃してくると仮定して対応するように]


 パメラは口の言葉と同時に思念通信を伝えた。アレクシスは簡単に納得の答えを返した。


 二人はゆっくりと動いた。もちろん空間が狭かったため、歩いて行ける距離はほとんどなかった。しかしアレクシスが魔法で作った氷剣で岩の瓦礫を切り取り、パメラの魔法がその瓦礫を横や後ろに片付けた。少しずつ道が開いていった。


 そうなると、アレクシスが監視していた身元不詳者たちの気配にも変化が起きた。


[動きます。こちらに近づいてくるのです]


[通路を少し広くしましょう。迎撃魔法は私が用意しますので、通路の岩を切り取ることに集中してください。相手の動きについては随時報告してください]


 アレクシスの剣が速くなった。その分前進のスピードも速くなり、相手の動きも少しずつ速くなっていた。


 アレクシスはその気配を観察した。


[どうやら向こうは岩に残留した魔法の妨害下でも我々の状態をかなり正確に観察できるようです。具体的なレベルはわかりませんが、少なくとも私と同じように魔力の気配が動くことくらいはリアルタイムでわかるようです]


[あっちの対応が早くなっていますの?]


[はい。おそらくこちらの速度が予想以上だったのでしょう。ですが向こうもこの中で自由に動くことはできないようです。速度がそこまで速くなったのでははないです]


 しかしそもそも距離はそれほど遠くなかった。遭遇まではあまり残っていないだろう。


 アレクシスはそう思い、相手の動きをより注意深く観察した。


[どうやらこちらに直行するのではなく、我々の前の方に来ようとしているようです。その位置で待っていて奇襲しようとしているのかもしれません]


 パメラはしばらく考えた後に答えた。


[それなら会う前に先に貫いてしまいましょう]


―――――


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