森の中の奇襲

 パメラはニッコリ笑った。


「もちろん考慮してますわ。それでこの服を準備したんですもの」


「服にかけておいた魔法のことですか?」


「ええ。もちろん純粋に似合う服を買いたかったのが本命だったんですけど、ちょうど魔物討伐実習がもうすぐなので活用したかったんですの」


「なるほど。制服にもある程度魔法がかけられていますが、だからこそ新しい魔法を加えるのが難しいです。いい選択です」


 アレクシスは頷いて納得した。パメラはその様子を見てそっと笑った。


 嘘ではないが、実は一番大きな目的はただペアルックを合わせることだった。他のすべてはただその目的を覆い隠すための言い訳に過ぎない。


 特に、服に魔法をかけて魔物討伐の実習でも使えるようにした理由は一つ。実習の時に着てくるようにすることで、自然に他の生徒たちに誇示するためだった。


 予想通り十分な性能を与えるとアレクシスはその服を着てきた。パメラはその事実にとても満足していた。


 もちろん実習内容が内容だから、油断しているわけにはいかない。


「そろそろ本格的のスタートですわね」


 パメラは指パッチンをした。左方向の森の中から突然、魔法の剣が数本飛び出してきた。そちらから接近していた魔物が全身から血を噴きながら絶命した。


 魔物の気配に反応して走ろうとしたアレクシスが再び剣を下ろした。


「早いですね。自分の出番がないようですが」


「私も完璧じゃありませんもの。それに魔物の気配を先に察知したのはアレクシスさんだったでしょう? 私はアレクシスさんの反応を見て魔法を発動したんですわ」


「それは自分がスピードで負けたということですが」


 アレクシスの言葉にパメラは苦笑いした。


 二人は時折出会う魔物を倒しながら前進した。時にはパメラの魔法が魔物を倒したり、時にはアレクシスの剣が魔物を切り裂いた。


 まだ一度に二匹が出てもおらず、出てくるたびに一撃で倒せる程度の魔物だけだった。その事実にパメラは首をかしげた。


「何か緊張感がありませんわ」


「パメラ様が変なのです。普通は魔物と初めて出会うと怖くて本来の実力を発揮できないものですから」


「アレクシスさんは平気なんでしょう?」


 パメラは本当にわけが分からないという顔でそう言ったが、アレクシスはそんな彼女を呆れた表情で見た。


「自分は騎士科ですし、魔物を討伐するのが初めてではありません。中等部一年生ならともかく、三年生の騎士科が魔物に出会ったからといってぶるぶる怖がると落第です」


 話を締めくくると同時に、アレクシスは振り向いた。毛が棘になっているオオカミが茂みから飛び出した瞬間、彼の剣が素早く簡潔に奴の首を切った。


 アレクシスは今殺した魔物を見て眉をひそめた。


「この魔物は……」


「どうしたんですの?」


「この付近から出てきそうな魔物ではありません。自分もこの森に詳しいわけではありませんが、こいつは騎士団が統制している深層区域に生息する種類です」


「危ないってこと?」


 パメラの眼差しが鋭くなった。先ほどまでのんびりしていた人だとは全然見られない速さの切り替えだった。


 アレクシスはその事実に内心感心しながらも、真剣な態度で質問に答えた。


「深層に生息する割にはご覧の通り弱い魔物です。縄張りから押された個体が他に出没することもありますので、まだ危険だと確定したわけではありません。ですが危険の前兆である可能性がありますから騎士団では常に警戒レベルを上げていると聞いています」


「こういう場合は騎士団に連絡するようになっているんでしょうね?」


「はい。連絡手段は自分が持っているので自分がします」


「実習はどうなりますの?」


 アレクシスは魔道具を取り出して操作し、頭ではしばらく物思いにふけった。そしてすぐに結論を出した。


「まだ続行するのです。この魔物が今の位置から出没する程度はまだ大丈夫です。今騎士団に報告しておけば、異変が発生しても騎士団が対処するのができます。ですから……」


 その瞬間、アレクシスは言葉を止め、パメラに手を伸ばした。力強い手が彼女を引き寄せた。


「きゃあっ!?」


 先ほどまでパメラが立っていた空間を魔力の塊が貫通した。空を切った魔力は少し離れた所に着弾して爆発した。


 魔物の仕業ではない。明らかに人間の魔法だった。


「何者だ? 今自分が攻撃したのがどなたなのか知った上の蛮行なのか?」


 アレクシスは魔法が飛んできた方向を睨みつけた。


 茂みと木が視界を遮っていた。だが目に見えなくても、露骨に敵意をばらまく魔力を勘違いするはずがない。


 それでも攻撃が飛んでくる直前まで気配を感じられなかった。相当な実力者なのだろうか、危険な魔道具を持っているのだろうか。


「……体を傷つけるつもりはなかった。余計なおせっかいだぞ」


 茂みをかき分けて現れたのはベインだった。戸惑ったセイラがその後を継いだ。


 アレクシスは魔弾が爆発した所をちらりと見て、険悪になった視線を再びベインに向けた。


「あんな威力を密かに人に撃ったのにですか?」


「人間には物理的なダメージを与えないように加工した魔法だ。しばらく眠りに落ちるだけだったぞ」


「直接的な妨害工作は実習ルール違反です。失格したいのですか?」


「バレなければいい」


 アレクシスは不快感を顔にあらわした状態でパメラを見下ろした。そしてようやく彼女を片腕で抱きしめていることに気づき、少し戸惑った。急いで彼女を避難させたので見た目が気にならなくなってしまった。


 パメラはベインの不意打ち程度で当惑する人ではないが、アレクシスの腕に抱かれた彼女は耳まで真っ赤になって固くなっていた。アレクシスはその意味を考えないように必死に視線を避けた。


 幸いベインの顔を見た瞬間、アレクシスは頭の熱が一気に冷たくなるのを感じた。


 慎重な手でパメラを引き離した後、冷たい眼差しがベインを睨んだ。


―――――


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