パメラの対応
「バレなければいいと、本気で思ってるのですか?」
「もちろんだ。そうでなければこんなこともしなかったぞ」
ベインが平然と答えた瞬間、アレクシスはベインに突進した。
疾走と斬撃。どちらも中等部三年生の騎士科の首席という名に相応しい一撃だった。ベインは剣で防いだが、事前に予想して備えていなかったら危険だったと内心思いながら冷や汗をかいた。
しかしアレクシスが放つ冷気の魔力は剣の防御とは関係なくベインの体を震わせた。
「それなら俺がここで貴様を切ってもバレなければいいということも知っているだろうな」
鋭く輝く青い目には、皇子への尊重など爪のあかほどもなかった。ベインが一言でも言い間違えると……いや、今剣の力比べをしている手から力が少し抜けただけですぐに斬ってしまいそうな勢いだった。
「ちょ、ちょっと待ってください! アレクシス様!」
セイラが慌てて割り込んできたが、アレクシスの視線が彼女に向けられた瞬間彼女はびっくりして退いた。状況に似合わない可愛いしゃっくりが出た。
アレクシスが再びベインの方に視線を向けると、ベインは冷や汗を流しながらも微笑んだ。
「バレないと思うのか? 人間の仕業と魔物の仕業は跡が違う。物理的なのはもちろんのこと、残留した魔力を調べれば明らかになるぞ。隠し方などありはしない」
「解剖する死体がなければ調べる跡もないものだ」
アレクシスの魔力が氷壁を作り出した。まるで二人を隔離しようとするかのように。セイラの魔法が氷壁の一部を取り壊したが、アレクシスの魔力が絶えず氷壁を再生させた。セイラの力では取り壊した一部を維持するのが限界だった。
アレクシスは真にベインを攻撃しようとするような魔法陣を描き、ベインもそれに対応するための魔法陣を構成した。だがそれらは発動直前に突然割り込んだ力によって霧散した。アレクシスの氷壁まで全部。
「剣を収めなさい」
「……パメラ様?」
アレクシスが声に反応する前に、魔法の力が彼を引き寄せた。アレクシスはパメラの隣に立つことを余儀なくされた。振り向くと、いつの間にかいつもの顔に戻ったパメラが立っていた。
パメラは無情な顔でベインを見た。その視線で何を感じたのか、ベインは少し緊張したような表情でパメラの行動を注視した。
パメラはしばらくベインを見て、何も言わずに振り向いた。
「姉君!? 俺を相手にもしないということですか? 姉君は本当に……」
「パメラ様。僭越ながら、これ以上ベイン皇子殿下の言行を黙過することはできません。断罪しなければ……」
「パメラ様、ちょっと待ってください。話を聞いてくだ……」
三人はそれぞれパメラに話しかけた。
しかしそれらが終わる前に、パメラの一度の手振りが強烈な魔力を発散した。
「あっ!?」
「っ……!」
「皆さん、ちょっと黙ってください。今私を気にさせたら何をやらかすか、私も確信できませんから」
パメラは再び向きを変えてベインを見た。意外にも声と違って、目はそれほど冷たい感じではなかった。しかし暖かい感じも全くなかった。
普段のパメラはベインの言動を残念に思ったり怒ったりしても、いつも姉としての優しさを抱いていた。ところが今はそれが全く見えなかった。その視線を正面から受けたベインだけでなく、アレクシスとセイラも疑問に思うほど。
パメラは無愛想に言った。
「ベイン。私を攻撃したことについて言いたいことは多いけれど、おかげさまで気持ちのいい経験をしたんだからそれは不問に付すわ」
その〝気持ちのいい経験〟を思い出したのか、パメラの視線が一瞬アレクシスに向かった。しかし目の中できらめいた感情が表に出る前に、再びベインへと冷たい視線を向けた。まるで今の感情を隠そうとするように。
「でもね。……今私、ちょっとあれこれ我慢しにくい状態なの。間違ったら爆発するかもしれないわ」
「……?」
アレクシスはパメラの言葉に奇妙な感覚を覚えた。何なのかはっきり分からなかったが、彼女の突然の変化と何か関連があるような気がした。
一方、ベインはそのことに気づかず、ただ不快に思って眉をひそめた。
「脅迫ですか?」
「アレクシスさんがあえて避難させてくれなくても貴方の魔法は私に何もできない。その程度は私が常時展開している魔法を突破できないの。その程度だけの貴方を私がどうしてあえて脅迫するの?」
ベインはそれを聞いて歯を食いしばった。しかしパメラは用件が終わったかのように、今度はセイラに視線を向けた。セイラはビクッと震えた。
「セイラさん。正直、貴方が何をしたいのかわかりません。けれどベインに引きずられたくないのなら、しっかりした方がいいですの」
「……はい」
パメラは一方的に話し、後を向いた。ベインがかっとなって話しかけようとしたが、その瞬間パメラの魔法の鎖がベインの口を塞いだ。
首だけ回してベインを見る目は妙に冷めていた。
「不満があろうが競争心を感じるだろうが、実習課題の中でやりなさい。卑怯な手段を使う理由が、正式な実習で私に勝つ自信がないからでなければね」
「……!」
最後にパメラは歩き始めた。ベインは歯を食いしばって拳を握るだけで、追いかける気配はなかった。
アレクシスはパメラの傍に走ってきた。そしてパメラの顔を見たが、パメラは目を閉じてため息をつくだけだった。
「大丈夫なのですか?」
「いいえ、大丈夫じゃありません。……説明するのはちょっと難しいですけれど」
パメラはしばらく前を向いて黙って歩いた。そうするうちにもう一度ため息をつくと、右手で魔法陣をコントロールし始めた。そして再び口を開いた。
「今私を変に思っているでしょう? 理解しますわ。けれど説明は後でします。今はまず目の前の課題に集中しましょう」
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