森での四人

 パメラとアレクシスはどこかの森を散歩するように歩いていた。レイナとロナンのコンビと一緒に。


 位置は帝都からさほど遠くない。しかし森が鬱蒼とし、魔力を持った怪生命体――魔物がよく出没するため、人々があまり行かない所だった。


 そのような場所にもかかわらず、四人の顔には余裕があった。


「今回の課題は特異なんですわね」


 パメラはレイナと並んで歩きながらそう言った。数歩後ろで彼女たちを見守っている二人の騎士見習いの少年にギリギリ聞こえる声量だった。


 レイナはあたりを見回しながら頷いた。


「そうですわね。護衛実習班同士の魔物討伐競争だなんて。これはかなり危険じゃないですか?」


「騎士団がここを統制していますから大きな危険はないでしょう。あちこちに安全のために騎士が配置されているし」


 彼女たちがこの森にいるのは今回の護衛実習の課題のためだった。


 課題の内容はレイナの言う通り。制限時間の間、森でどんな魔物をどれだけ討伐するかを競う。


 パメラの言葉通り、騎士団が安全のために配置されてはいる。だが生徒たちには突然の実戦。特に、学年が低い生徒の中には一生初めの魔物との実戦である人が多い。それで今回の実習は申請者が少なかったが、四人は当然のように実習を申請した。


 パメラは苦笑いした。


「護衛実習は騎士のパートナーまで戦闘に参加することを想定したのでしょうか? 戦闘と関連した課題が多いわね。前の模擬戦もそうでしたし」


「非戦闘課題も手ごわいものでしたけれども」


 レイナは何かを思い出したような渋い顔になった。パメラはその表情を見て大笑いした。するとレイナがふくれっ面をした。


「人がミスしたことをそんなにあざ笑ってはいけませんよ」


「あはは……いえ、ごめんなさい。レイナさんがダンス中に男性の方の足を踏むとは想像もできなかったんですの」


「何でも完璧な皇女にとっては滑稽な光景だったのでしょう。ふん」


「いえいえそうじゃないんですわ。レイナさんがとてもきれいで完璧に見えたからですの」


 すねるレイナとなだめるパメラ。魔物が出る森にしては実に平和な光景だ――後ろで見守っていたアレクシスとロナンは同時にそう思った。


「なぁ、ロナン。その服は何なんだ?」


「かなり実戦的な魔法が施された服だ。戦闘に役立ちそうだからな」


「それは見ればわかる。俺が聞きてぇのは、いつから堂々と皇女殿下とペアルックを着るようになったかってことだよ」


 アレクシスは口をつぐんだ。


 パメラとアレクシスは前回買った服を着ていた。今回の実習は厳然たる実戦だけに、各自使えるものは何でも使えるように許可された。制服に代わる戦闘服や活動服も含めて。


 その服には意外にも優れた防御力と身体能力を補助する魔法がかけられていた。かなり精巧で強力な魔法だった。


 アレクシスは少し考えて言った。


「パメラ様がプレゼントしてくれただけだ。性能が良くて着たらこうなったんだ」


「皇女殿下がペアルックをプレゼントするほどの仲だってこと?」


「……」


 アレクシスはまた口をつぐんだ。彼の表情を見たロナンは笑い出した。


「クハッ。お前、皇女殿下とかなり仲良くしてんじゃねぇかよ。その服も直接一緒に見て買ったじゃねぇか」


「何だ。知っていたか」


「こう見えてもこの国の経済の大きな柱って言われるデリメス商会の人間だぜ。商会の後継者になるつもりはねぇけど、帝都の商店街は俺の手の平の中だ」


 ロナンの目が一瞬鋭くなった。その視線はアレクシスの服に向けられていた。


「それでなんだけど、何なんだそれ? その服を売ってた店は普通の服屋だと思うけど?」


「実際に店で試着した時は普通の服だった」


「そんな服がどうしてそんな魔法が施された魔道具になっちゃったかよ?」


「……パメラ様が魔法をかけたみたい」


 購買する時までは平凡な服だったが、その服を受け取ってから見ると強力な魔法がかかっていた。その事実に驚いたアレクシスにパメラはニッコリ笑いながら「もうすぐ魔物討伐実習ですからね」と話していた。


 パメラが直接強力で半永久的な魔法を与えた。魔法の効果自体にも驚いたが、最初から魔道具として設計して作るより平凡な物を後天的に魔道具として作るのがはるかに難しい。それに気づかないように密かに実行してしまったパメラの能力には言葉も出なかった。


 ロナンも同じことを考えていたようだった。


「知れば知るほどすげぇ御方だぜ」


「そうだな。それよりそろそろだ」


「うん? あ、そっか」


 前を走っていたパメラとレイナの雰囲気が変わった。別れの挨拶を交わしながら、互いに違う方向に歩き始めたのだ。


 実際に実習を行う区域は森の一部だけ。残りは騎士団が厳重に統制している。今ちょうど四人は実習区域に進入したばかりだ。


「じゃあ、気をつけろよ。でも今度は俺が勝つ」


「不可能な夢でも高い成果を出す推進力にはなるものだ。頑張ってみろ」


「はっ、相変わらず憎たらしく余裕があるぜ。後で覚えろよ」


 二人の騎士見習いの少年はそれぞれのパートナーと合流した。


 合流するやいなやパメラはアレクシスを見上げながら言った。


「ペアルックを指摘されたようですわね」


「……最初からそのことですか。そうでなくてもこれに着替えてから周りの視線が結構気になるんですが」


「あはは、ごめんなさい。でも万全を期したかったんですもの」


 万全を期すならあえて外観がペアルックである必要はなかったのですが――そう言いたかったが、アレクシスはため息をつくことに代わった。実はそんなに悪い気分ではなかったから。


 それより今はそんなことを気にしている場合ではない。


「これから気をつけてください。自分はそれなりに魔物討伐の経験がありますが、それでもパメラ様を完璧にお守りできるとは確言できません。魔物って奴らはいつも予想外なのです」


「ありがとう。心配しないでください、油断するつもりはありませんから」


「それなら幸いですが、どうかご注意ください。油断ではなくても警戒が十分ではなくて事故が起きたりするものですから」


―――――


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