急な変化

「アレクシスさん。これ、試着してみてもらえますの?」


「仰せのままに」


「そんな風に言えば私が職権乱用をしているみたいじゃないですか。こんな時は気楽に接してくださいね。もし嫌なことなら断ってもいいですわ」


 正直、俺の立場ではそれほど違う感じでもないのに。とアレクシスは思ったが、苦笑いするパメラの面前でそう言う気はなかった。


 パメラはどういうわけかじっとしていた。アレクシスは少し首をかしげたが、すぐにパメラの意図に気づいて手を差し出した。「ください」と言うとパメラがパアアッと笑って服を差し出した。


 アレクシスに差し出したもの以外にも、パメラが腕にかけている服がもう一つあった。だがアレクシスは次の服だろうと思うだけで気にしなかった。


 アレクシスは試着室に入るとすぐにパメラからもらった服を広げて見た。


「……ふむ」


 白い服に青い刺繍が施されたブレザーと青いパンツ。刺繍はかなり簡素な方だったが、材質が高級なだけでなく、かなり動きやすい服だった。刺繍とパンツの色はアレクシスの髪と瞳の色を意識したものだろう。


 おそらく値段はかなり高いだろうが、全体的なデザインは贅沢感が抑えられ活動性もある。騎士見習いとしてはなかなかいい服だった。


「センスはまぁ、悪くないね」


 着替えをして試着室を出たが、パメラの姿は見えなかった。


 アレクシスは反射的に魔力を探知した。パメラの魔力はすぐに発見された。幸い何かが起きたわけではないという安堵と共に、さっきパメラが服をもう一着持っていた理由を悟った。


 その直後、パメラが女性用試着室から出てきた。


「あっ、早く出てきましたわね。お待たせしました?」


「そもそもそうおっしゃるほどの時間ではな……」


 アレクシスはパメラの方を振り向いて……固まった。


 赤い刺繍が施された純白の女性用ブレザーと、裾にレース付きの赤いスカート。魔法で染めた髪はいつの間にか元に戻っていた。刺繍とスカートの色がパメラの髪色に合わせた赤色という違いはあるが、アレクシスのものとセットということが一目でわかるデザインだった。


 パメラは恥ずかしそうに両手を合わせて言った。


「他の生徒たちがこんな風に似た服を他の人と合わせて着てみたって話を聞いて私もやってみたかったですわ。幸いに貴方に似合う……アレクシスさん?」


 パメラは首をかしげた。


 アレクシスは何の反応もなく固まっていたが、パメラが彼の状態を覗くように上半身を突き出すとまた動いた。片手で顔の下の部分を隠して視線をそらしたのだ。


「アレクシスさん?」


「……申し訳ありません。誰かと服を合わせて着たことがないので少し驚きました」


「フフ、私も同じですわ。同じことを経験しましたわね」


 パメラは穏やかに笑った。アレクシスはそれを横目でちらっと見たが、その直後は何かを我慢するように目をぎゅっと閉じた。そして長い細い息を吐いた後に、再び普段の姿に戻った。


 アレクシスはまたパメラを見て、ワンテンポ遅れて口を開いた。


「……すごくお似合いです。とても」


「フフッ、ありがとう」


「ところで、ちょうど合う色があったようですね」


 オーダーメイドでもないので、似たような色といっても微妙な違いがあるもの。しかし刺繍とボトムスの色が二人の髪色と完璧に同じだった。それを指摘したのだ。


 ところが、パメラはニッコリ笑って指パッチンをした。すると二人の服が一瞬白く曇って、刺繍とボトムスの色が黄金色に変わった。


「簡単な幻覚魔法ですの。購入することになったらカラーリングの魔法で染めるんですもの」


「……そうですか。いいお考えです」


 パメラは再び指パッチンをした。すると今度は二人の服が元の服に変わり、試着していた服がパメラの目の前に現れた。


 パメラは服を魔法で店員に送り、購買意思を伝えてからアレクシスを振り返った。


「もしかして私と似たような服なのが迷惑なのじゃないでしょう?」


「自分は大丈夫です。むしろパメラ様が大丈夫なのかお聞きしたいのですが」


「どうしてですの?」


「学園で他の生徒たちが交流するのを見ると、同じ種類の品物を合わせて購買することに特別な意味を付与しました。余計な誤解が生じるかもしれません」


 アレクシスはよく分からない話だが、カップル製品だとか何だとか言いながら浮かれているのを見たことが何度かあった。友人同士が同じ製品を備える程度なら大きく注目されることもないが、それが男女になれば話が変わる。特に服やアクセサリーの種類ならなおさら。


 パメラは目を丸くしたが、すぐに問題ないと言うように笑った。


「ペアルックみたいなものですわね? まぁ、どうせ皇女として生きていけばデマなんて一日に数十個ずつ生産されるんですもの。それに……別にそんな噂が出ても構わないし」


「はい? それはどういう……」


「あ、計算してきますわ」


 パメラは一方的に話を切り、店の中に入ってしまった。アレクシスは伸ばした手をまた下ろした。


「……何かおかしい」


 一人取り残されたアレクシスは眉をひそめて呟いた。


 パメラの態度も、アレクシス自身の反応も理解できなかった。パメラをよく知っているというほどの関係ではないが、急にあんな風に振る舞う人だとは思いもよらなかった。そして余計に当惑する自分の状態は何なのだ。


 アレクシスはいろいろな意味で混乱に陥っていたが、パメラが戻ってくるまで結論を出すことができなかった。


「今は私の魔法で運びます。貴方の服は帰宅する時にあげますわ」


「……はい」


 戻ってきたパメラがそう言った。アレクシスはまず平静を装って答えた。


 そんな彼の姿を、パメラはどこか嬉しそうに笑いながら見つめた。


―――――


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