二人の外出
「アレクシスさん、これどうですの? 私に似合いますの?」
「悪くないですね」
アレクシスは適当に答えながらも、内心どうしてこうしているのかため息をつきたい気持ちを必死に抑えた。
学園の授業のない休日。せっかくゆっくり鍛えるつもりだったのに、いきなりパメラが彼を呼び出した。必要な魔道具を買うのに助けが必要だという理由だった。
しかし、今パメラが体に当てて見せているのは白いワンピース。普遍的な美的感覚で見ればきれいで、パメラによく似合うのも本気だ。だがお世辞でも魔道具とは呼べない平凡な服に過ぎない。
用事を終えて時間が余って遊ぶのなら構わない。しかしパメラは最初から彼女自身やアレクシスに似合う服や装身具を探し回るだけだった。皇女というのがバレないように赤い髪と瞳の色を魔法に変えて変装したまま。
そもそも皇女の服や装身具のようなものは城の専門家がいくらでも備えておくんじゃないか? どうやら時間の無駄のようだが――そう思いながらも、アレクシスはそれを言葉で表現しなかった。
しかし微妙な心情が顔に現れたのだろう。パメラはふと首をかしげた。
「アレクシスさん?」
「どうされましたか?」
「何か気に入らないような気がしまして。もしかして退屈なんですの?」
「いいえ、違います」
即答だった。そして答えたアレクシス自身がびっくりした。
騎士見習いとして修練に役立つわけでもなく、自分に必要なものを買うわけでもない。もともとアレクシスはこのような時間を好まない。実際、ロナンがつまらないものを買いに歩き回るために自分を引き入れた時は退屈を抑えられなかった。
ところが、今違うと答えたのは何の迷いもない本心だった。それがアレクシスにとって初めてのことだった。
「本当に大丈夫ですの? なんだか表情が深刻なんですけれども……」
「問題ありません。……」
何かもっと言いたいが、何を言えばいいのかわからない。でも余計にパメラ様が心を傷つけないでほしいんだけど。
アレクシスはそのような考えをしていたが、その事実そのものに新たさを感じた。不快な感じではなかった。
「……問題はありませんが、純粋に気になります。今日の目的は魔道具の購入ではありませんでしたか?」
「ああ、そっちの方が気になったんですの? ええ、魔道具も買いに行きますわ。けれど用事だけ終えて帰るのは面白くないでしょうね。せっかくこんなに自由に市内を歩き回ることができるのに」
「自由に……ですか」
アレクシスはちらりと視線を他の方向に向けた。
目に見えるのは平凡な市民と都市の風景だけ。しかしその中にパメラを守るための人々が潜伏していることを知っている。当然だろう、皇室としても皇女が何の護衛もなく市街地を歩き回ることは許されないはずだから。
パメラはアレクシスの視線の意味に気づいたかのように苦笑いした。
「完全な自由じゃありませんけれど、護衛と従者をたくさん連れて動くのよりはマシですの。ある程度はやりたいようにすることもできますからね」
「立場上の苦情ということですか。失礼しました」
「いいえ、当然の疑問でしたわ。それよりあそこに行ってみましょう!」
パメラはアレクシスの手を取り、ある店に彼を導いた。アレクシスは手から感じられる柔らかな感触と彼女が気兼ねなく手を握ったこと自体に一瞬驚いたが、悪い気分ではなかったので彼女が導くままについて行った。
入った所はアレクシスが見るに他の所と大差ない服屋だった。
「服はもう十分購入されたのではないですか?」
アレクシスはパメラの隣に浮かんでいる荷物を見ながら言った。
望んでついてきたわけではないとしても、買い物くらいは持ってあげるつもりだった。しかしパメラは面倒だと言って、すべての荷物を魔法で移動させていた。まるで息をするのと変わらないかのように何気なく。
パメラはアレクシスを振り返って明るく笑った。
「まぁいいでしょう。こんなに自分でショッピングすることが多くもありませんから。それにどうせ一緒に来ましたから今度はアレクシスさんの服も選んであげますわ」
要らない――そう言おうとしたがやめ、アレクシスは一瞬考え込んだ。断るのは簡単だが、パメラの表情を見るとなぜかそうしたくなかった。
だが長い間考えはしなかった。そうしていてまたパメラが気後れしたら困るから。
「自分のような者には過分ですが、いただければありがたくいただきます」
「あら。そんなに素直に受けると言うなんて。説得するためにあれこれ言うことになると思いましたわ」
……素直に受け入れる必要なかったか。
一瞬そんなことを考えて眉をひそめた。するとパメラは彼の考えを察したかのように笑い出した。
「アハハ。今言ったことは本気ですけれど、とにかく受け入れてくれると私としてはありがたいですわ。じゃあちょっと見てきます。こっそり他の所に行っちゃダメですわよ?」
「今までも素直に待っていたじゃないですか」
「それはそうですわね。じゃあ少々お待ちくださいね」
パメラが店を見回している間、アレクシスは黙ってその姿を見た。
考えてみれば何もしない時間。もともと彼はこんな時間が好きではない。だが今は不快だったり、時間がもったいないという気がしなかった。
「……ふむ」
このような変化が肯定的なのか、否定的なのか。アレクシス自身、初めてのことなので判断できなかった。
しかし少なくとも不快感はない。それなら今あまり気を使う必要はないだろう。
そのように考えている間、パメラは腕に服を掛けたまま再びアレクシスに近づいた。
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