カーライルの目的

 カーライルは学園の教師として生徒たちの悩み相談に応じることが多い。


 主に担当する科目は歴史関連だが、分析と助言能力が卓越した彼は多様な相談を要請される。甚だしくは彼は魔法能力が優れていない方であるにもかかわらず、魔法と関連した相談にもよく応じてくれる。


 今日の相談もそういう系だった。


「そうなったんですね。遺憾の意を表します」


 カーライルは優しく笑いながら相手を慰めた。すると相手――ベインはイライラするように息を長く吐いた。もちろんカーライルに向けたイライラではなかった。


「すみません、先生。せっかく助言してくださったのに無意味にさせたのです」


「いいえ。無意味ではありません。生徒の本分は戦って勝つのではなく、戦って勝てる能力を学び育てることです。勝敗としての結果が敗北だとしても、それから学んだことがあれば生徒として成功なのです。感じて学んだことが多かったでしょう?」


「……それはそうです」


 ベインは口では頷いた。実際にもそれを認める気持ちはあった。しかし彼の悔しさは認めないからではないので、言葉だけで納得したからといって感情が整理されるわけではなかった。


 歯を食いしばったまま拳が震える姿だけを見ても、そのような気持ちは明白だった。カーライルはそれを見て苦笑いした。


「対決という形式である以上、結果が惜しいのは当然でしょう。ですが現在の優劣が永遠にそのままだと決まっているわけではなく、機会はこれからも多いです。ですから今の結果だけに気を使うよりは、これからのことを考えた方がいいでしょう」


「そうでしょうね」


 ベインはもう一度息を吐き、表情を整えた。感情が整理されたわけではないが、カーライルが言ったように過去にだけ埋没しているのは良くないから。


 カーライルはベインの変化を確認して微笑んだ。平穏だがどこか意味深な笑みだった。


「お聞きしたいことがあります。適性のことをパメラ皇女殿下におっしゃったようですが……パメラ皇女殿下は何とおっしゃいましたか?」


「姉君がですか?」


 ベインは首をかしげながらも誠実に自分が見たことを話した。カーライルは表情を変えずに最後までそれを聞いた。


 ベインの話が終わった時はカーライルの表情も平凡な笑みに戻っていた。


「ありがとうございます。助かりました」


「こんなものがなぜ必要なのかはわかりませんが、いつも助けてくれる先生のお役に立てば嬉しいです」


「はは、いいえ。私は教師としての本分をするだけですから。では、模擬戦のフィードバックですが……」


 カーライルはベインの長所と補完点を説明し、ベインの質問に何度か答えた。ベインは満足して帰った。


 カーライルはその後ろ姿をじっと見つめ、ベインが完全に遠ざかっていることを魔力の気配で確認してから口を開いた。


「役に立つとは思いませんでしたが、思ったより使えそうですね」


「かなり冷笑的だね。演技が上手だ」


 カーライルの後ろから少年の声がした。部屋の不自然に濃い影に半分埋もれていて、顔が現れない少年だった。


 少年が大声で笑うと、カーライルは目を閉じて吐き出すように言った。


「こう見えても結構苦労しています。別に皇女と皇子に恨みはありませんが、の子である以上は私が心から尊重する理由はありません」


 カーライルは立ち上がって窓に向かった。


 窓から見えるのは長い間見てきた学園の姿だけ。ほとんどの生徒がすでに下校した後なので人が少なかった。おかげでカーライルの研究室の下に小さく造成された花園の姿がよく見えた。


 カーライルはそれを見て眉をひそめた。窓枠にのせられた手に力が入った。


「燦爛たる〝あの御方〟を失ってから私の目的は一つだけです。まだまだ遠いし大変なのですが……それでも道が見えます。貴方の協力にも感謝します」


「まあ。僕も僕の目的のために協力するだけだからね。お互い同じじゃない?」


「それはそうですね。お互いの目的と利益のために利用する関係。ですがだからこそ、与えられるものだけを確実に約束すれば十分信頼できます」


 カーライルは少年を振り返った。依然として濃い影に埋もれて顔は見えなかった。


 実際、カーライルは少年の顔を見たことがない。いつも妙な方法で顔を隠したまま一方的に現れたから。


 しかし関係ない。言った通り、お互いに利益を提供することだけが目的の乾燥した関係だから。


 少年はふっと小さな笑い声を流した。


「進捗状況はどう? 僕も協力したことだから気になるよ」


「……まあまあと言えるでしょう。悪くはありませんが、満足することもありません」


「ふーん。自信満々だった割には結果が十分じゃないって感じだね」


 少年はポケットから何かを取り出してカーライルに投げた。カーライルは片手でそれをキャッチした。


 金の型に漆黒の宝石がちりばめられたペンダントだった。


「これは?」


「前にくれた奴の改良版。次の計画に使ってね」


「ありがとうございます」


「この僕がせっかく協力してあげたんだからね。ちゃんと成功しろって」


 少年はその言葉を残して忽然と姿を消した。彼の姿を隠していた不自然な影も消えた。


 カーライルは少年がいた場所をしばらく黙って見た。それでも分かることは何もなかったが、その考え自体が少年に対する感想と一脈通じるという考えで苦笑いが出た。


 少年が誰なのかはカーラかも知らない。ただ知っているのは自分の目的に応じてカーライルに協力することだけ。おそらくカーライルの『計画』の成否が少年にも影響があるのだろう。


 どうせ目的に利用できれば、誰が何をくれても受け入れる。カーライルが〝復讐〟を決心した時から誓ったことだ。


「もうしばらくお待ちください。貴方様の無念を必ず……」


 少年がくれたペンダントをぎゅっと握りしめ、カーライルは暗い声を吐き出した。


 その言葉が、声がまるで呪いのようにカーライルの耳元に漂っていた。


―――――


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