ロナンの感想

「なあ、アレク。かっけぇ勝利だったなぁ?」


「最後はパメラ様の独走だったが」


 ロナンは笑いながら肩を組んできたが、アレクシスはぶっきらぼうに答えた。


 パメラがレイナと話をしていた頃、今日の護衛実習が終わったアレクシスとロナンは練習場で別々に個人訓練を終えてしばらく休む時間だった。


 余裕がある時にロナンが勝手に話しかけてくるのはアレクシスに慣れたことであり、アレクシスのぶっきらぼうな返事はロナンに慣れたことだった。


 ロナンはニヤリと笑った。


「最後は確かにンなことだったけど、お前も結構活躍したじゃん。姫様を救った時はかなり素敵だったぜ?」


「そう言うお前はかなり早く終えたようだな」


「おう。楽勝だったなぁ。って、相手だった人たちには申し訳ねぇけど、そもそもレベルの差が大すぎだったよ。まぁそっちも学ぶって態度だったし、満足したようだったから問題はねぇと思うけど」


 ロナンはニコニコしながら言ったが、アレクシスの顔を見て一瞬目を丸くした。だがその直後、さっきとは違う意味の笑いが浮かんだ。


「ほほう。お前がそんな顔だなんて珍しい」


「そんなこと言われるような表情をした覚えはないぞ」


 というかアレクの顔はいつもの無表情だった。


 しかしロナンは気の毒そうに人差し指と共に首を横に振った。


「は、オレにはお前の本音なんて丸見えだぜ。ダチだよダチ」


「初耳だ」


「お前は知らねぇみてぇだけど、慣れればお前思ったより分かりやすい奴なんだ。それよりお前が勝ってもそんなに不満に思うなんて確かに変わったことだよ」


「不満? 俺が?」


 アレクシスは眉をひそめた。


 自覚はなかった。しかし聞いてみると、アレクシス自身もそのような感情があることに気づいた。確かにロナンの言う通りに、勝ってもそんな感情を抱いたのは初めてだというのも。


「ふむ。言われてみればそうだね」


「だろォ?」


 しかし、アレクシスは鼻でフンという音を立てた。まるで今の感情をそこに込めて流そうとしているかのように。


「俺の感情はとにかく、模擬戦は勝った。結果で証明した以上深く考える必要はないだろう」


「いやいや、それは違ぇよ。もっと深く考えてみろって」


「なんでそれをお前が気にする?」


「ダチとして当然気になるんだ。しかも珍しい反応だから面白ぇし?」


 ロナンは両手で後頭部を支えた。


「でも珍しいなぁ。何が不満だったんだろォ」


「俺も知らない。お前に聞く前はそう思っているという自覚もなかったから」


 妙に気分が悪かったが――それは言わないまま、アレクシスはロナンの発言を待った。


 正直あえて釈明する必要はないと思っているが、ロナンは気になることを無視する性格ではない。必ず掘り下げて何かを明らかにしようとするだろう。ならそれに便乗してみるのも悪くないだろう。


 ロナンは予想通り自分の推測を勝手に出した。


「かっけぇ姿を見せたかったのに、中途半端に終わったからかなぁ?」


「……は?」


 その推測が予想の外だというのが問題だったが。


 アレクシスは露骨に眉をひそめた。いつもの少し眉間にしわを寄せる感じとは違った。


「バカなことを」


「姫様と初めて一緒に呼吸を合わせたんじゃねぇか。せっかくだからかっけぇな姿を見せたかったかもしれねぇよ」


「俺がお前かよ」


 アレクシスはため息をついた。しかしロナンは真剣な顔で指を一本伸ばした。


「いやいやお前、今日の訓練の気合いからが違ったって。手合わせしながら確実に感じたぜ。普段はもっと余裕のある奴が」


「ほんのそれだけでそう思うのかよ?」


「なあ、モチベーションは大事だよ。しかも模擬戦の時お前、姫様が危機だった時だけ本ッ当に不愉快そうだったよ。そして最後に姫様が無双した時もなかなか気に入らねぇようで」


 言われてみればそういう感じはあった。それを近くにいなかったロナンに指摘されてやっと気づいたのは少し腹が立ったが。


 一方、ロナンはしばらく考えてから再び話しかけてきた。


「お前は姫様のことをどう思う?」


「どうとは?」


「言う通りの意味だよ。お前、最初は姫様と護衛実習をするのが好ましくなかったじゃねぇかよ」


 確かにそれはそうだった。だからロナンがパメラと護衛実習契約を結ぼうと駆け寄ったわけでもあるし。そしてロナンは知らないが、アレクシスは最初に心からの拒絶意思を先に表明していた。


 しかし今は最初ほど忌まわしい感じがない。


 ロナンはアレクシスが無表情で物思いにふけっているのを見て微笑んだ。


「まぁ、お前が好きならダチとして嬉しいことだよ。ただ一つ確認してぇけど。……?」


 ロナンは最後に意味深長に言った。アレクシスはその言葉の意味をすぐに理解した。


 ロナンは家族を除いて唯一アレクシスの秘密を知っている友人だ。そして学園でアレクシスが困難な状況に置かれたたびに、その秘密を守ることに協力してくれたありがたい友人でもある。普段はそぶりを見せないが。


 だからこそロナンには隠すつもりはない。


「心配する必要はない。


「はあ!? おい、それいいのかよ? お相手は姫様だぞ」


「大丈夫じゃないけど、口説くつもりはないだろうな。そう聞いたし、口説くならとっくにやったはずだから」


 ロナンはそれを聞いて安堵したが、すぐに別の意味で眉間にしわを寄せた。


「姫様もすげぇな。それを知るのにお前の傍に置くなんて。オレはお前のダチだからお前がいい奴だってことを知ってるけど、普通は偏見が先だって怖がるだろ」


「……そうだな。俺も本気でそう思う」


 アレクシスはロナン以外の人に秘密がバレたことはなかった。ロナンの場合はちょっと変わったケースだったが、結果的には気にせず友達としていてくれるのは内心ありがたかった。しかしそれがどれほど奇跡的なことなのかもよく知っていた。


 アレクの秘密の一つは、彼が人類を敵対する魔族とのハーフだという点だから。


―――――


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