模擬戦の結論

「そなたは姉君にあまり競争心を感じないかもしれないし、俺の無理やりにそなたを引き込むのは申し訳ないと思う。だが俺は止めるつもりはない。だから嫌なら今でも言え」


「……」


 セイラは黙ってベインを見た。


 何かを恐れてグズグズしている様子。ベインは最初は彼女が辞めたいが皇子に下手にそのような言葉を持ち出すことができないからだと思った。


 しかし悩んだ末、セイラが言ったことは少し予想外のことだった。


「殿下はどうしてパメラ様に勝ちたいんですか?」


「愚問だな。姉君と俺は皇位継承者だ。この国は次期君主の資格に生まれた順番や性別が考慮されない。だからこそ能力で自分を証明して最高にならなければならないのだ」


「必ず皇帝になる、ってことですか?」


「バカなことを。皇帝の座に関心がないと言えば嘘だろうが、それだけのために姉君への勝利に執着する必要はないのではないか。他の方法もあるから」


「ならどうして執着されるのですか?」


 ベインは眉をひそめた。しかしセイラは彼の怒りを恐れず、ただ静かでどこか神秘的な雰囲気で彼を見つめた。


 ベインは妙なプレッシャーを感じながら誠実に答えた。


「そりゃ当たり前じゃないか。俺は姉君を……姉君、を……」


 いや、答えようとした。


 自分の中の確信をただ言語で表現するだけ。それだけなのに、不思議なことに言葉が出なかった。思い出せなかった。むしろ近づくほどぼやけた何かが目の前を覆うような錯覚がした。


「姉君を……俺は、確かに……?」


 疑惑は混乱になり、混乱はパニックになった。ベインは頭を掴もうとした。


 だが登っていた手をセイラが握って止まった。


「大丈夫ですよ」


 柔らかくて暖かい魔力がベインを包んだ。


「あ……」


 安堵のためだろうか。それとも何だかわからない魔力の作用なのか。


 最後にそんなことをぼんやりと思った直後、ベインは意識を失って前に倒れた。椅子に座っていた彼の前にセイラが立っていたので、自然にセイラの胸に抱かれる形になった。


 セイラはベインの頭を優しく抱きしめてとんとんと叩いた。だが彼女の表情は動作の平穏さと暖かさとは程遠いものだった。


 心配、怒り、悩み。そんな複雑な感情がうかがえる顔で、セイラはため息をついた。


「本当に……違うことを願ったのに。パメラ様は多くのことが違うのに、どうしてこの御方は残酷なほど同じなのだろう」


 聞く人のいない独り言も、もどかしい気持ちを我慢できず溢れ出た本音だった。


 セイラは意識を失ったベインを柔らかい魔力と手で支えながら、自分だけが知っている〝記憶〟を最初から最後まで検討した。


 ベインがなぜ混乱したのか。姉のパメラを敵対する理由は何なのか。彼女はそのすべてを知っている。それがこれからどんな未来につながるかまで全部。


「解決することはできる。けれど私の知る方法は……」


 決して良い方法ではない。


 その言葉を口の中に飲み込んだまま、セイラは何度も何度も悩んだ。


 ベインとパメラの関係。彼女が知っていることとは変わったこと。セイラ自身はどうすればいいのか。


 しかし適当にするつもりはなかった。


「私にこの記憶が宿った理由は分からないけど……きっと意味があるはずだから」


 誰も聞かないところで、セイラは一人で誰も理解できない決意を固めた。




 ***




「レイナさん~」


 模擬戦が終わり、その日の放課後。パメラは学園の庭で皇女らしくなくテーブルの上にだらりと垂れ下がっていた。


 きちんと座ってティーカップを持っていたレイナはその姿を見て苦笑いした。


「『万能』の皇女殿下のこんな姿を他の人から見たら何だと思うか分かりませんね」


「勝手に考えろって言うつもりですわそんなこと。どうせ普段から私のことを何も知らないくせにあれこれ言うじゃないですか」


「不満が多かったようですわね。まぁ、私としてはパメラ様のこういう姿を見られるのも特権ですけれども」


「そんなのが特権だなんて、私ならもらってもお断りですわ。……まぁ、別に人に不満があるわけじゃありませんkれども」


 パメラはため息をつきながら腰を伸ばした。


 彼女はテーブルの上に垂れ下がるために横に押しておいたティーカップを引き寄せたが、手にすることなく水面をじっと見つめた。


 さっきまでは大丈夫だったが、模擬戦の時のことを思い出すと改めて赤くなった顔が見えた。それがなんとなく恥ずかしかった。目の前でレイナが見ていることを知っているからなおさら。


 レイナはパメラをじっと見つめ、いたずらっぽく笑った。


「護衛の騎士さんのことを考えてるんですの?」


 ビクッ。パメラの肩が面白いほどわかりやすく上下した。その姿がレイナをさらに微笑ませた。


 パメラはレイナの笑顔を見るとなんとなく悔しくて頬を膨らませた。


「レイナさんは余裕ですわね」


「ええ、まぁ。私はが好きな方なんですの」


「そんなテーマって何ですの?」


 レイナはニコニコ笑うだけだった。一方、パメラはますます頬を膨らませた。


 レイナは手を伸ばしてその頬を突いた。


「実は私、パメラ様の模擬戦をほとんど最初から見ていたんですの。私も模擬戦の課題をしましたけれど、相手だった方々には申し訳ないことに格差がひどすぎだったんですわ。早く仕上げて見物を少ししました。おかげさまで護衛の騎士さんがパメラ様をかっこよく救い出すのも見ました」


 レイナは上半身を突き出し、手でささやくような態度をとるふりをしてからかうように言った。


「パメラ様がぎゅっと抱きしめられたのも、ですね?」


「……!」


 ボッと、パメラの顔が熱くなった。


 一方パメラをからかっていたレイナはその姿を見て目を丸くした。


「意外ですわね」


「……な、何がですの?」


「パメラ様は優しい御方なんですけれど、たまに超然とした雰囲気がありましたからね。でも今は何と言うか……初めて私と同い年なんだなって思いました」


―――――


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