ベインとセイラ

「チクショウ!!」


 ベインは悪口を吐き、拳で机を叩きつけた。


 パメラとの模擬戦が終わった後、彼は学園の空き教室に来るまで何も言わなかった。教室に到着して椅子に座った後もしばらく何も言わなかったが、口を開けるやいなや最初に出てきた言葉がそれだった。


 彼についてきたセイラがびっくりして震えたが、ベインはそれに気づかなかった。


「そんなに力なく負けるとは……!」


「ごめんなさい。私がもっと魔法をうまく扱っていたら結果が違っていたかもしれません」


 セイラがしょんぼりして言うと、ベインはハッと驚いてセイラを眺めた。そして彼女の表情を見て、自分の髪を乱れさせてため息をついた。


「いや、そなたのせいではない。そなたは十分努力してくれた。ただ俺が姉君に及ばなかっただけだ。……いや、俺たちと同年代の誰も姉君には及ばないだろう」


 ベインは不愉快そうに話していたが、表情や眼差しは複雑だった。しかし少なくとも負けたことが悔しいということ自体は本気だった。


「……正直、勝つと本気で期待してはいなかった。だが少なくとも姉君の勝算を脅かすほどの実力はあると思った。しかし実戦になればこんな格好だ。そなたにはすまないな。無能な俺のせいで聖女の初模擬戦に無駄な敗北が記録された」


「い、いいえ! 私が足りなかったのも事実です。だから謝ることじゃありません。むしろ私が謝るべきですよ」


「……そなたは本当にお人好しだな」


 有利な瞬間も確かにあった。しかしそれはパメラの油断が生んだチャンスにすぎない。彼女が本気になるとすぐに何もできず、力なく敗北した――それがベインの認識であり、それは事実だった。


「反省点が山のようだ」と言ってぶつぶつ呟くベインを、セイラは眉を垂らしたまま眺めた。


 敗北に怒りながらも、自責するセイラにただ自分のせいだと言って謝る皇子。そういえば初めて護衛実習を要請した時も高圧的なのは話し方だけだった。あくまでセイラに〝要請〟するというスタンスを維持していた。


「お姉さんの問題さえなければ優しい御方なのに……」


「うむ? 何て言ったか?」


「ごめんなさい。独り言でした」


 そうごまかしたが、セイラはすぐに何か決心した表情で拳を握った。その表情の変化がベインの注目を集めた。


「どうした?」


「あの、殿下。お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


「質問ほどでそんなにいちいち許可を求める必要はない。忌憚なく言ってくれ」


 許可は得たが、セイラはすぐ言い出せずグズグズした。


 ベインは静かに待った。だがセイラがしばらくそうしているとだんだん表情が曇ってきて、ついにため息をついて苦笑いした。


「俺が人に迷惑をかける人間だという自覚はあったが、そこまで迷っているのを見れば自分自身を振り返るようになるんだな」


「え!? い、いいえ! 殿下には何の過ちもありません。これはただ私の問題ですので……」


「だとしても心を開いて話せる相手だったらそんなに迷わないだろう」


「……そういう優しさをお姉さんのパメラ様にも発揮してほしいんですよ」


「全部聞こえるぞ。さっきはわざと聞こえないふりをしてあげたのに、またそんなことを言うんだな」


「はっ!?」


 セイラは驚いて口を塞いだ。もちろん今さらだが。


 ベインはその姿に失笑するだけで、無礼だと怒っている様子はなかった。セイラは安堵で胸をなで下ろした。


 その表情に再び緊張が戻った時は、もう躊躇しなくなった。


「まずお聞きします。パメラ様の適性が『万能』というのは本当ですか?」


「そなたも見たはずだ。姉君の魔法がどれほど多彩だったかを。……それより皇女の適性という大きなイシューを知らなかったか? そなたはある意味すごい人だな」


「そ、それは事情がありまして……。でも多様な効果を発揮したのは殿下の砲撃も同じだったじゃないですか」


「俺は砲撃というカテゴリーの中でできる限りのアレンジを加えただけだ。何でも自由にできる姉君とは本質的に違う」


 セイラは相変わらず何か釈然としない様子だったが、反論はせず「なるほど」という一言で納得した。


「ティステ公女については。……どうやってご存知に?」


「ふむ?」


 ベインの片眉がピクッと上下した。


「有用な情報源があった。そうだけ言う」


 明らかに具体的な答えを避ける言葉だった。しかし詳しいことを問い詰めるだけの関係でないセイラとしては、これ以上突っ込むことはできなかった。


 そうじゃなくても、セイラとしては考えることが多かったが。


 一方ベインは自分を前に一人で物思いにふけっているセイラを興味津々に眺めた。


 皇子のベインはある程度未来が約束されている。次期皇帝候補でもあり、たとえ皇位争いで敗れても他に権力を活用できる道はかなり多い。粛清されなかった時の話ではあるが。


 とにかくそのような立場であるため、ベインを前に他のことを優先する者はほとんどいなかった。彼の前に立つ者は彼の関心を引いて恩恵を受けたり、あるいは彼に利用価値があるかを試そうとする者たちだけだから。そのため、セイラの反応はベインにとってかなり新鮮だった。


「……何か決定的なことが変わった……どうして? 何があったのかな……」


 ……セイラがずっと一人で呟く内容はかなり気になったが、ベイン自身も先ほどきちんとした返事を避けたところだ。そんなくせに自分だけが気になることを根掘り葉掘り聞くほどの厚かましさは彼にはなかった。


「まぁ、とにかくありがたい」


「え……はい? 急にどうしたんですか?」


「そなたのおかげで頭の熱が冷めた。姉君に勝たなければならないということは変わらないが、前回の敗北を噛み締めて怒っていたところで次の勝利は近づいてこない。勝利という奴はこちらから必死に近づいても遠ざけようとするだけで、自ら来てくれないからな」


「うわぁ。何かすごく年に合わない名言ですね」


「……そなたはモジモジと礼儀正しいくせに自分の考えを言うことには遠慮がないな。知れば知るほどそなたという人が分からない」


 ベインは呆れた顔でそう言った。


 しかしその直後、彼の表情に再び真剣さが戻った。


―――――


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