模擬戦の結果

 セイラは頭を下げたまま返事がなかった。


 何を考えているのかは分からなかったが、パメラはそれが悪くない反応だと思った。提案を断る気が強かったら悩まず即答したはずだから。


 しかしセイラが悩みに答えるより、外部から割り込むのが早かった。


「とんでもない!」


 ベインは爆発の爆風に乗ってパメラへと突進した。わき腹に攻撃を受けた標識が刻まれていた。アレクシスの刃に切られることを覚悟して走ってきたのだろう。


 パメラはそのことを考え、眉をひそめながらも隙なく魔法陣を展開した。


「ベイン。降伏しなさい。貴方に勝算はないわ」


「その傲慢さが姉君を破滅させるでしょう!」


 ベインは数十個の魔法陣を描いた。すべて砲撃魔法陣だったが、単に破壊だけのためではなかった。それぞれが特殊な効果を持っており、多様な魔法に対処できるように設計されたものだった。


 パメラはそのいくつかを見知り、興味深いように薄目を開けた。


「姉君を倒すために徹底的に研究し、心血を傾けました! もう俺が姉君を越えるのです!」


 パメラはベインの魔法陣をすべて確認した。


 四方を囲む配置。単純に包囲するだけでなく、魔法同士のシナジーや発射軌道干渉などをすべて考慮して慎重に配列された。しかもしっかり発動すれば各魔法の効果も極大化されるだろう。研究したという言葉が虚言ではないようだった。


 しかし、パメラは笑い声を上げた。


「ベイン。一つ大きな間違いがあるわね」


 ベインはパメラの言葉を無視して魔法を起動した。対応する余裕を与えない良い取り組みだった。


 相手がパメラでなかったら、という修飾がつくが。


 ――術式展開魔法〈千門並列陣〉


 瞬きをした瞬間、風景が一変した。ベインのものをはるかに上回る数の魔法陣が同時に展開されたのだ。しかもベインのもの以上に種類も多様だった。


 ベインの砲撃はパメラの魔法陣の軍勢の前では何の意味もなかった。すべての砲撃はそれぞれの効果を相殺する魔法の前で打ち砕かれた。それでも半分以上の魔法陣が残っていた。


 パメラはニッコリと笑った。


「私は一度も貴方に自分の全力を見せたことがないわ。ところで何を研究したってこと?」


「……!」


 ベインは歯ぎしりをした。


 再び大量の砲撃魔法陣が展開された。パメラはそれを発動前に全消去できたが、わざとそうせず対応の魔法陣を別々に編み出した。


 砲撃魔法陣だった。


「なっ!?」


 ベインのと同じ……ではない。より効率的で効果的な魔法陣だった。まるで見本を見せるかのように。


「姉君……貴方という人は……!」


 砲撃と砲撃が衝突した。


 パメラは一発一発の威力を正確に同じに合わせた。より効率的で効果的な魔法陣で同等の威力を演出したので、より多くの数を準備する余裕があった。そのように確保した物量でベインの弾幕を圧倒した。


 もちろんパメラはそれで終わらなかった。


 ――魔剣魔法〈七剣の檻〉


 七本の巨大な剣がベインの周りの地面に突き刺さった。彼を閉じ込める巨大な牢獄のようだった。剣の魔力が共鳴しながら強力な結界を形成した。


「これしきのこと!」


 ベインは魔剣の監獄に向かって砲撃を行ったが、魔剣に届くどころか結界の力場すら突き破ることができなかった。しかもその間にもパメラは結界に魔法を重ねてきた。


「こ、これは……!」


 セイラの方も状況はそれほど変わらなかった。ベインを救おうと魔法を試みていたが、すべての魔法をパメラが遮断していた。むしろパメラが追加で展開した魔法がセイラまで封鎖していた。


 結局両者とも完全に制圧されるまで長くはかからなかった。


 パメラはベインの方に近づいた。ベインは依然として結界を壊すために魔法を浴びせていたが、パメラが平然と結界を通過して入ってくると驚いて目を丸くした。


 しかしそれはパメラが自らベインの攻撃範囲内に入ってきたという意味でもあった。


「愚かです、姉君!」


「いや。愚かなのは貴方の方よ、愛らしきバカ弟」


 ――動作制御魔法〈剣術発現〉


 ベインは剣を持って突進した。パメラは魔法で魔剣を作って対抗した。


 ベインは剣を振り回し、同時に砲撃魔法をかけた。しかしパメラは魔力を誘導する魔法で砲撃の軌道をすべていなし、剣術もベインを圧倒した。


「こんな、こんなはずが……!?」


「終わりよ」


 ――魔剣魔法〈拘束の魔剣〉


 剣と剣がぶつかった瞬間、パメラの剣から魔力の鎖が溢れ出た。それはあっという間にベインの剣を無力化し、剣に乗ってベインの腕まで拘束しようとした。


 ベインはすぐに剣を捨てて後退した。しかし彼が後退して踏んだ土地にはすでにパメラの罠魔法が設置されていた。彼の足が地面に触れた瞬間、魔法陣が発現した。


「ぬおっ!?」


 急激に強くなった重力がベインを伏せた。彼は地面を力で押して何とか起き上がろうとしたが、パメラの重力魔法は肉体の力だけで乗り越えられるものではなかった。


 パメラはベインの目の前に剣を突き立てた。ベインが驚いた目で見上げるとパメラの怒った目が見えた。


「ベイン。言いたいことはたくさんあるけれど、今はまずこれだけ言っておくわ」


 パメラはベインの体を指差した。正確には彼の体に刻まれた魔法の赤い跡――安全結界の攻撃受けの標識を。


「一定何してるの? 安全結界があるから大丈夫だと思ったかしら? そんな無謀に戦う習慣をつけて実戦でミスしちゃったら取り返しのつかない結果になっちゃうわ」


「姉君には関係ないことです」


「本気でそう思うなら今すぐ頬を出して。ビンタ一発全力で叩きたいから」


 パメラはかがんでベインの額に手を置いた。魔法で強化された筋力から噴き出す強烈なデコピンがベインの額を強打した。


「がはぁっ!?」


 ベインは涙がにじんだ目でパメラを睨んだが、パメラの強烈な眼差しの前で沈黙せざるを得なかった。


 パメラは半泣きしそうな顔をしていた。


「私は貴方の姉なのよ。姉が弟のことを心配するのは当然じゃない」


―――――


2023年、皆さんお疲れ様でした!

あけましておめでとうございます、来年もよろしくお願いします!

また来年に~

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