予期せぬ感情

 アレクシスは片腕でパメラを抱きしめたまま、もう一方の腕だけで剣と魔法を振り回してベインの砲撃に対処した。砲撃は早くて強かったが、アレクシスはそのすべてを完璧に防いだ。


 しかし片腕だけで防御するのが不便なのか、アレクシスは眉をひそめ、剣を地面に刺した。


 ――氷結魔法〈極地の城壁〉


 もう一度氷の城壁が現れた。それが砲撃を防ぐ間、アレクシスはパメラの状態を調べた。もし傷がないか確認するためだった。もちろん攻撃されたとしても安全結界のおかげで傷はないだろうが、結界が残した信号を確認してこそ完全に守ったか判断できるからだ。


 パメラは何も言わずにぼんやりとアレクシスの顔を見ていた。


「殿下? 大丈夫ですか?」


 アレクシスは眉をひそめた。一瞬、多くの考えが彼の頭をかすめた。


 怪我をしたのか? いや、安全結界が突破された様子はない。安全結界も万能ではないが、ベイン皇子殿下の魔法にそれほどの威力はない。でも何か他の問題が――。


 早い判断力と思考速度であらゆる可能性を検討していたアレクシスだったが、途中でパメラの顔が赤く熱くなるのを見て考えを止めた。


「殿下、どうされましたか?」


 呼んでも返事がなかったからアレクシスの表情が少しずつ深刻になっていった。しかしパメラはそれを気にする余裕さえなかった。


 彼女の頭の中はとても複雑だったが、目の前の模擬戦のせいではなかった。


 ち、近い! 近い近い近い!!


 ……パメラの頭の中は一言で言ってこんな感じだった。


 アレクシスのクールでハンサムな顔が突然目の前を埋め尽くした上、強靭な腕が自分の体をしっかりと抱きしめる感覚。十一年の人生で初めて経験したことに、パメラは自分でも呆れるほど簡単に平静を失った。


 アレクシスが肩をつかんで振る時になってようやく、パメラは正気に戻った。


「ええ、大丈夫ですわ。何の問題もありません」


「問題なくはないように見えましたが。本当に大丈夫ですか?」


「本当ですわ」


 パメラは声に力を入れて言った。しかし顔にはまだ紅潮が残っていて、アレクシスはそれを怪しく見ていた。


 パメラは話題を変えるために必死に頭をひねった。


「そ、それより。殿下、じゃなく名前で呼んでくれることにしませんでしたの?」


「……そういえばそうだったのですね。まだ慣れていませんので。すみません」


 二人は視線を前方に向けた。〈極地の城壁〉が依然として砲撃をよく防いでいたが、連続した攻撃を一つの魔法だけで防御し続けたからそろそろ氷壁に亀裂が入っていた。


 しかしパメラはそれよりもその向こうのセイラの表情が気になった。


「あの……反応は……」


 セイラはパメラに視線を向け、目を丸くしていた。


 アレクシスがパメラを救う場面。アレクシスがパメラの護衛騎士である以上、それは十分あり得ることだ。だがそれ以上にセイラはその姿を〝知っていた〟。しかしすべてが彼女の知る通りではなかった。特にパメラの反応が。


 でもセイラの頭の中を知らないパメラとしては、ただ首をかしげるだけだった。


「そろそろ本気で行きますわ」


 パメラはセイラの姿を気にしないことを決め、低い声で宣言した。少し怒ったような気配が混じっていたが、それ以上に先ほどの自分の姿をごまかそうという意図が強かった。


 アレクシスは〈極地の城壁〉を魔力で補強しながらパメラを横目で見た。


「本気とは?」


「油断したとはいえ、ベインに一発食らうところでしたからね。姉としての威厳を取り戻さなきゃ。しかもいくら安全結界があるとしても、ベインが無理をしたことに対しては説教もしなきゃなりませんもの」


「かしこまりました。具体的にどうなさいますか?」


「ベインを徹底的にマークしてくださいね。私はまずセイラさんを無力化します」


「熟知しました。ところで――」


 パメラは何かを感じ、アレクシスの方を見た。


 彼は視線を前方に固定して笑っていた。自信満々で、どこか傲慢にも感じられるように。パメラは彼があんなに大きな表情をしているのを初めて見た。


「先にベイン殿下を圧倒しても構いませんか?」


「……フッ。もちろんですわ」


 それ以上の議論は必要なかった。


 アレクシスが〈極地の城壁〉を解除した直後。二人は同時に突進した。


 ベインの砲撃は依然として殺到していたが、パメラが展開した無数の魔法陣がすべての砲撃をそれぞれ受けた。アレクシスに向けられたことさえ全部。その間、アレクシスは氷の道を作って速いスピードで滑るように移動した。


「はっ!」


「うむ!?」


 アレクシスとベインが再び剣をぶつけた瞬間まで、パメラはベインの方を眺めながら移動していた。だが剣が激突する瞬間、彼女は〈転移〉でセイラの後ろに移動した。


 セイラはその奇襲にすぐには対応できなかった。


「ひゃあっ!?」


 パメラの魔法の鎖がセイラを襲った。


 セイラは拘束された手足から『神聖』の魔力を放出して拘束を破壊し、放出した魔力で魔法陣を描いた。いくつかの防御魔法を一度に展開したのだ。


「なかなかいい腕ですわ」


 パメラは品評のような態度で指パッチンをした。術式に干渉する魔法がセイラの防御を弱めた。しかしセイラも『神聖』の力で抵抗した。


 ――結界魔法〈暴君の領域〉


 ――神聖魔法〈不屈の加護〉


 人を威圧して押さえつける結界と干渉を退ける加護が衝突した。〈暴君の領域〉の力は〈不屈の加護〉を破ることができなかった。だがその時すでにパメラは三つの魔法をその上に重ねていた。


「きゃあ!?」


〈暴君の領域〉がもう一つ。そこに物理的に拘束する魔法の鎖と、魔法を燃やす特殊な火まで重なった。結局セイラは多重魔法に拘束されて倒れた。


 パメラはセイラを見下ろしながら淡々と話した。


「別に殺す殺される戦いでもありませんし、今回の課題の点数は勝敗で決まりません。だから降伏するのがどうでしょうか?」


―――――


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