怪しさと探索

「セイラさん。私の勘違いなら訂正してください。貴方、私に何か敵意を持っているようですわね。違いますの?」


「!」


 セイラは著しく当惑した。


 パメラはまるでピアノを弾くような指の動きで魔法陣を展開し制御しながら話を続けた。


「貴方がベインと一緒にいること自体は構いません。いや、むしろあの子の友達になってもらえれば姉として歓迎することでしょう。けれど貴方の目が気になりました。単純にベインを助けるためのものというには、貴方自身が私に持っている感情が見えました」


 話しながら空へ描き出した魔法陣から巨大な足が飛び出してセイラを踏みにじった。セイラは慌てて防御魔法を展開して防いだ。


 パメラはあえて防御魔法の発動を止めず、ただはっきりに話し続けた。


「だからといってベインと同じ種類の敵意にも見えませんし。魔法でも人の感情や考えを完全に覗くことはできませんので推測に過ぎませんけれども」


 パメラは優しくて有能な皇女と評されているが、たった一つ。人がよく知らない姿がある。


 今の冷たくて厳正な眼差しがそうだった。


「私は争いが好きじゃありません。ですが皇族という立場で生まれてしまった以上、争いから自由になることはできません。それで私なりの基準を一つ決めましたの」


 その瞬間、セイラの閃光魔法が彼女を押さえつけていた巨大な足を破壊した。


 踊る光の中で、セイラはしばらく何か悩んでいる様子だった。でもすぐ決然とした顔で口を開いた。


「敵対者を皆壊す……とかなんですか?」


 セイラの揺れる眼差しはパメラを恐れるのだろうか。それとも自分の考えが間違っていることを願う不安なのだろうか。


 パメラにはわからなかったが、どうせ重要ではなかった。


「本当の敵ならそうするでしょう。けれど……敵であることが確定する前には、できるだけ仲良くいられるように頑張ること。私の目標はそういうことですわ」


「え?」


 セイラは目を丸くした。心から驚いた様子だった。


 パメラはセイラがなぜそのような反応を見せるのか分からなかったが、少なくともその反応だけは敵意とは無関係だと感じた。


「セイラさん。貴方が私を見て何を考えているかはわかりません。けれど私をよく知っているって言えるほどの時間はありませんでしたわね。だからもう少し……」


 競争課題とは別に、セイラと人間対人間として敵対するつもりはない。


 それをアピールしようとしたが、話を終える前にベインの声が割り込んだ。


「実力勝負を延ばして聖女を懐柔しようとするのですか? 悪女ティステと同じ適性を持って生まれた人らしいですね」


 ベインはアレクシスに対して劣勢だったが口だけは生意気に笑っていた。今の話は挑発が目的だろう。


 その言葉に対する二人の少女の反応はそれぞれ違っていた。


「ティステと、同じ……? それなら『万能』……?」


 セイラはパメラとの魔法戦もしばらく忘れてぼんやりしていた。パメラは事故を防ぐために魔法を止めて彼女の姿を見たが、セイラは慌てたまま何かを一人で考えるだけだった。


 一方、パメラは鋭い目でベインの方を見た。


 ティステの適性と同じ――つまりティステも『万能』の適性者だった。パメラも知っている事実だった。カーライルがくれた手帳に書いていたから。


 パメラが気にするのは、ベインとセイラがティステの名前と適性を知っているという事実だった。


 ティステは記録が抹殺された存在。死んでまだ二十年も経っていないので覚えている世代はいるだろうが、ベインとセイラは当然含まれない。そして記憶する者たちも生半可に口にすることはないだろう。


 もし誰かがティステのことを教えてくれたら、何か意図があるかもしれない。


 だがパメラが『万能』の適性者であることをわからなかった様子のセイラがベインと同じ情報を共有しているかはまだ分からない。


「でもベインもまだまだ未熟ですわね。あんな意味不明の挑発だなんて」


 パメラはわざとセイラに話しかけて彼女の注意を喚起した。そして彼女を多数の魔法陣で包囲した。ひとまずベインの方を度外視し、セイラに集中して先に無力化するつもりだった。


 しかし、よりによってタイミングが悪かった。


「はああっ!」


 ――砲撃魔法〈爆炎の刃〉


 ベインは四階の砲撃魔法陣を剣身に積み重ねた後、それを斬撃と共に爆発させた。アレクシスは氷で防御して後退した。ダメージは受けていなかったがしばらく距離が開いた。


 その隙にベインは多重魔法陣を描いた。


 ――砲撃魔法〈太陽の槍〉


 一列に並んだ多重魔法陣の中央から強力な炎が生まれた。砲弾というよりも巨大な熱線のような一撃が放たれた。


 アレクシスは〈太陽の槍〉の威力を見抜き、強力な氷の壁を構築した。防御自体は成功したが全力で魔法を維持するためしばらく足止めされてしまった。


 その隙にベインは爆発で身を吹き飛ばした。パメラの方へと。


「聖女よ!!」


 ベインの砲撃はパメラの魔法陣の一部を打ち砕いた。その空白がセイラに強化魔法の余裕を与え、強化されたベインの砲撃がパメラに浴びせられた。


「甘いわ」


 パメラは大量の魔法陣で砲撃を防いだ。そしてその一部を魔法で奪取し増幅してベインに返した。


 ベインは反撃の砲火の中に迷いなく飛び込んだ。


「ベイン!?」


 パメラは驚いて目を見開いた。一瞬彼女の魔法展開が遅くなった。


 セイラが急いで防御魔法を展開したが、急造されたものでは力不足だった。数発がベインの体に命中した。練習場の安全結界のおかげで怪我はしなかったが、攻撃を知らせる警告の光が輝いた。


「聖女よ! 俺に増幅魔法を!」


「殿下!?」


「早く!!」


 セイラは反射的にベインの言葉に従った。パメラは妨害しようとしたが、ベインの砲撃は物理的に妨害を遮断した。そしてセイラの魔法でさらに強くなった砲撃が四方を襲った。


 まだ驚きから完全に抜け出せずにいるパメラは反応が少し遅れた。


 爆炎がパメラを襲おうとした瞬間――。


「すみません。遅れました」


「えっ!?」


 パメラは突然体が引っ張られる感覚に驚いて固まった。強い腕が彼女を抱き締め、砲撃から逃れた。


 アレクシスだった。


―――――


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