模擬戦

 護衛実習契約者にだけ与えられる課題はいくつかある。中でもメインになるのは実習班同士の競争課題だ。


「お久しぶりです、姉君」


「ええ、そうね。……顔はよく見る仲なのに久しぶりって挨拶することに違和感がないのが悲しいわ」


「中途半端な演技はおやめください」


 皮肉るベインの表情を見て、パメラは眉を悲しげに垂らした。


 アルトナイス帝国学園の巨大な魔法練習場。数人の護衛実習班が集まっていた。結局特例を貫いたベインとセイラの班も含めて。


 今日の課題はシンプルに班同士の魔法対決。実習班の中でも特に騎士科の生徒のパートナーが魔法科の場合に与えられる課題だ。練習場に設置された安全結界のおかげで怪我をする心配はないが、初めての生徒は普通緊張して消極的に遂行する方だ。


 しかし、腕を組んでパメラを狙うベインはともかく……パメラも心の中の妙な敵意を感じ、適当にやるつもりはなかった。


 赤毛の皇子と聖女の組み合わせ。初めて見る組み合わせなのに、なぜか頭に強い印象を残した。うんざりする頭痛と既視感と共に。


「行きます!」


 ベインは力強く宣言してから先に剣を抜いた。


 ベインの伸びた刃先から光が流れ、魔法陣を描いた。あっという間に大量に展開された魔法陣から巨大な円筒が現れた。


 ――砲撃魔法〈砲撃〉二十八連発


 円筒――大砲が一斉に火を噴いた。


 発射されたのは着弾の瞬間に爆発する魔法の火炎。それが二十八発、全部パメラに向かって降り注いだ。


「殿下、動かないでください」


 アレクシスは前に出て剣を抜いた。大きく振り回された刃先から光が伸びていった。地面を侵食した光が細長い魔法陣を描いた。


 ――氷結魔法〈極地の城壁〉


 地面から氷の城壁が伸びた。


 学園で『氷の騎士』という異名で有名なアレクシスの適性魔法。入学以来、一度も突破されたことがないと言われる無敵の城壁は今回も傷一つなく砲撃を防いだ。


「アレクシスさん、そのまま前進してください。サポートしますわ」


「御意」


 氷の城壁が崩れ、無数の氷の剣に変わった。


 アレクシスは剣の軍勢を率いて突進した。ベインが展開した弾幕が氷の剣の半分を迎撃した。しかしアレクシスは特に固い剣の十本を前方に傘のように広げて砲撃を受け流した。


 適当な距離まで突っ込んだと判断したアレクシスは、剣を一斉に発射した。


「聖女よ! 守ってくれ!」


「あっ……は、はいっ!」


 ベインは剣を握って突進した。砲撃魔法に魔力を装填するだけで、発射はしないまま。


 後ろでセイラが両手を祈るように集めた。聖なる光の魔法陣がその手を包んだ。


 ――神聖魔法〈天の盾〉


 光のバリアーがベインに向けられた氷の剣をすべて弾き出した。


 ベインはそのまま突進し、バリアーでアレクシスを突き飛ばした。だがアレクシスはそれを防げなかった。むしろ衝突する前に足を上げてバリアを踏むように蹴り、その反動で後方に跳躍した。


 ――氷結魔法〈復讐の雪花〉


 ――砲撃魔法〈砲撃〉十二連発


 熱い砲撃と六枚の氷の盾が激突した。盾は爆発の瞬間壊れた。しかし壊れた破片が鋭い短剣に変わってベインに浴びせられた。


 ベインが〈天の盾〉を信じて突進しようとした瞬間、パメラが静かに魔法を発動した。


 ――対魔魔法〈術式粉砕〉


〈天の盾〉が消滅した。それだけでなく、ベインが魔力を装填しておいた予備〈砲撃〉まで消えた。


 ベインは無防備な体を守ろうとするのではなく、素早く砲撃魔法を一つ構成して足元を砲撃した。爆発の風が彼の体を空中に吹き飛ばした。そのように氷の刃雨を避けた彼は空中で再び爆発を起こし、アレクシスの方へと突進した。


 ――神聖魔法〈戦士の加護〉


 身体能力を強化する魔法がベインを強化した。しかし二人の剣が激突した瞬間、力から押されたのはベインの方だった。


「なっ……!?」


 ベインは慌てて姿勢を取り戻し、剣を振り続けた。しかしアレクシスはすべての攻撃を平然といなした。それだけでなく、剣撃を受ける時は刃を巧みに動かしてベインの剣を外し、隙を狙って剣や魔法を突き込んだりもした。


 二人は同時に剣を大きく振り回した。後方のサポートを信じて防御を捨てた攻撃だった。同時にバインの方は〈天の盾〉が再び展開され、アレクシスの方はバリアーを破壊する魔法と物体を操る魔法が同時に展開された。


「ぬおっ!?」


 ベインの剣が大きく外された。反面アレクシスの剣は〈天の盾〉を破った。だが今回は完全に無力化することはできず、バリアーの力がアレクシスの剣を少し外れた。


 アレクシスはすぐに次の魔法を発動した。足元から伸びた氷がベインの足を打った。ベインは小さいが速い爆炎でその意図を粉砕したが、そこに気を取られた短い隙さえもアレクシスの前では大きかった。


 カッ、カガン、カカンッと刃が三回ぶつかった後、四回目の激突が力比べにつながった。身長差と姿勢のため、アレクシスが上から押さえつける形だった。


 ベインは剣を震わせながらかろうじて口を開いた。


「くっ……『神聖』のバックアップさえ上回る力とは、そなたは化け物なのか……!?」


「年月の差です」


 両騎士は力比べを続け、同時に至近距離での砲撃と氷結の応酬を続けた。


 一方、パメラとセイラは後方で彼女たち同士の攻防を続けていた。……いや、パメラが一方的に圧倒していた。


「セイラさん。貴方はどうしてベインを助けるんですの?」


 セイラは答えなかった……というよりただ余裕がなかった。絶えずベインを支援するための魔法を発動したが、そのすべてがパメラの魔法に相殺されていた。


 パメラは数十個の魔法陣を同時に展開し、その中から必要なものを選択修正して瞬く間に魔法を展開した。それだけでなく、セイラやベインに向かって攻撃魔法を発射する余裕まであった。それに対処する防御魔法だけでもかなり手一杯だった。


 だがセイラは緊張したり恐れながらも決して諦めなかった。その目はパメラの眉をひそめさせた。


―――――


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