ティステ
「テリベル公女……ですか」
パメラは今聞いた情報を紅茶の一口と共に吟味した。
聞いた内容自体は理解したが、なぜティステの名前だけが記録抹殺されたのかが疑問だった。反逆者の娘とはいえ、いざその反逆者本人の名前と行跡は歴史の授業でも教えてくれるほどなのに、当事者でもない娘の名前だけを歴史から消してしまうなんて。
カーライルはパメラの表情から疑問を察したかのように苦笑いし、胸から小さな手帳を取り出した。
「私も詳しいことは知りません。ただテリベル公爵の逆心を助けたのがバレて処刑されたという程度だけが知られていました。当時は皆をだました悪女だと指差されたのですけれども」
「だましたって?」
「はい。もともとティステ公女は美しく優しい女神のような存在だと慕われていました。ですが、それは父親の反逆を助ける味方を集めるための欺瞞の策だった……ということが理由でした」
「そう……でしたの?」
その瞬間、パメラは再び小さな頭痛を感じた。
そんなに気になるほどではなかったが、今回は苦痛よりも妙な感情に慌てた。カーライルの言葉を聞いた瞬間、心が〝そんなはずがない〟と叫ぶような反発心が沸き起こったのだ。
しかし今回は表向きではただ眉をひそめた程度であり、カーライルも彼女の本音を見抜くことができなかった。
「ミドルネームが殿下と同じでしょう? 実際〝ハリス〟は遠い昔のアルトヴィア王国を統治した優れた女王のご芳名です。殿下のミドルネームもその御方のご芳名を取ったものですが、テリベル公爵は娘にその名を付けることで密かに逆心をあらわにしたと言われています。まぁ、実際にはその名前を取ってくるのはよくある事例ですので、後で付けられたものにすぎませんが」
カーライルは手帳の上に魔法陣を描いた。魔法陣の魔力が手帳に吸い込まれ、中で魔力が動く気配が感じられた。それが終わった後、手帳がパメラに渡された。
「私が知っていることを整理しました。申し上げたことと大きな差はありませんが」
「ありがとうございます。悪女ティステ……そういえば父上は反乱鎮圧と侵攻防御の戦争英雄として名声を得ましたわ。悪女ティステの討伐とも関係があるかもしれませんね」
その瞬間、カーライルの目は一瞬鋭く冷たくなった。
本当に刹那の刹那、感情を瞬間的に我慢できなかったような反応だった。それはすぐに収拾されたがアレクシスはその瞬間に気づき、彼を睨んだ。経緯はともかく、パメラの護衛である彼にとってはパメラにそのような感情に向かう者を黙過することはできない。
そしてパメラはそのすべてに気づいたが、わざと見なかったふりをして微笑んだ。
「ところで、どうして記録抹殺になったのかはわかりませんか?」
「公式的な理由はありません。ですが、もともとティステ公女は当時王太子だったアディオン陛下の婚約者でした。おそらく反逆者の娘を婚約者にしたことと、婚約者がその反逆に加担したことを王家の恥部と考えたのでしょう」
「ふぅん。ありそうな話ですわね」
再び心の中で何か反発心がうごめくが、パメラはティーカップを口にしながらそれをごまかした。再びカップを置いて紅茶を飲み込んだ時はすでに平気な笑みだけが残った。
「アルラザール・テルヴァについては?」
「彼はティステ公女がアルトナイス学園に在学中だった頃、彼女の実習護衛騎士でした。卒業後も王国騎士団ではなく、その時の縁でテリベル公爵家が率いる騎士団に入団しました。公的な場でティステ公女の護衛としていつも同行していました」
「魔族であることがバレて処刑されたと聞きましたけれど」
魔族は人間と似た外見で、人間よりはるかに強力な身体能力と魔法能力を持っている。そして人間と長い敵対関係であり、平凡な人が魔族を見るやいなや問答無用で殺害しても罪を問わないほど種族間の関係が破綻している。
しかしカーライルは苦笑いしながらテーブルに魔法陣を描いた。魔法陣が小さな幻想を作り出した。デフォルメされた形状だったが、ギロチンに固定された人とそちらに近づく人の姿ということは分かった。
「正確に言うと前後関係がちょっと違います。アルラザール・テルヴァはティステ公女の護衛騎士として彼女の処刑に反対しました。そして当日、処刑場を単身で襲撃しました。そこで王国軍と戦闘をして死亡したのですが、その際に魔族の力をあらわにしました」
「どうせ処刑を妨害する反逆者として現場で射殺されたのでしょうね?」
「その通りです」
その後もいくつか話が出たが、ほとんど大きな栄養価がなかった。
最後に「私がティステ公女について話したことは秘密にお願いします」と言った後、カーライルは先に席を立った。パメラは黙って後ろ姿を見つめ続けた。
カーライルの姿が見えなくなるやいなやアレクシスは口を開いた。
「殿下。カーライル先生にお気をつけください」
「どうしてですの?」
「怪しいです。急に禁止された話を伝えるのもそうですし、途中で敵意を示しました。理由はわかりませんが、決して純粋な善意ではなかったでしょう」
「ふふ」
パメラは笑いながら再びカップを手にした。アレクシスはもどかしそうに「殿下」と呼んだが、その瞬間パメラの眼差しを見て口をつぐんだ。
カーライルが消えた方向を見る赤眼は、その色とは正反対に冷たく沈んでいた。
「知っていますわ。そもそも私が誰だと思うんですの? 純粋な皇族とはバカになるだけですわよ。でもアドバイスはありがとう。心配してくれて心強いですわ」
「……義務を果たしただけです」
「ふふ。そんな点はラーズとは違いますわね」
パメラはそう言ってカップを傾けた。冷めてぬるかったが味が悪くないと思いながら。
しかし、アレクシスは首を少し傾けた。
「……ラーズ?」
「え?」
その時になってようやくパメラは自分が何の名前を言ったのか気づいた。その瞬間また軽い頭痛が訪れた。
「殿下? 大丈夫ですか?」
「大丈夫ですわ、問題ありませんもの。……考えることが増えましたわね」
その言葉にアレクシスは静かに頷いた。単なる納得のサインではなかった。彼自身も今のやり取りで考えるべきことができたからだ。
もちろん、それをパメラに言うつもりはなかった。
―――――
本作のタイトルを最初のものに戻しました。
個人的に気に入ったのは直前のタイトルでしたが、本作のプロットとは多少合わない部分があると判断しました。
プロットに一番合うのはやはり最初のタイトルだったようです。
重ねて混乱と不便をおかけして本当に申し訳ありません。
読んでくださってありがとうございます!
面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!
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