初対面の少年

「殿下は……」


 アレクシスは何か言おうとして黙った。その後もまた何かを言おうとするように口を小さく開けたり閉めたりしたが、結局ため息をついた。


「大丈夫ですか? また頭痛を感じていらっしゃるようですが」


「……ええ、大丈夫ですわ。今回は軽い程度ですわね」


「よかったです」


「それより制度について説明していただけますの? 簡単に聞いたことはありますけれど、詳しい内容は分かりません」


「かしこまりました。まず……」


 アレクシスの説明はほとんど騎士団の仕事と似ていた。


 簡単に言えば、様々なことを現場実習や模擬体験の形にすること。その中でパメラが望む護衛は特定の対象を選んで一種の契約関係を締結し、学園内で定められた時間の間対象を補佐し護衛する実習だった。


 その他にもいろいろな事項があったが、パメラにとって重要なことは一つだけだった。


「契約関係はいつでも締結できますの?」


「定められた登録期間があります。ただし解消は自由で、解消理由によっては新しい契約を自由に結ぶことができます」


「なるほど。期間を待たなきゃなりませんね」


「殿下。本当にそのままなさるのですか? 今ならまだ変えられます」


「約束を破らないって言ったでしょう?」


「約束は自分が殿下の意思に従うということ。殿下が決定を変えるのであれば問題はありません」


 パメラは苦笑いした。


「最初に自分で懲戒を申し出たのもそうですし、どうやら貴方は私を遠ざけたいようですわね。理由は何ですの?」


「そんな考えはありません」


「まぁ言うならとっくに言っていたでしょう。それを問い詰めるために貴方を護衛にすると言ったので」


 パメラは大したことではないと思った。どうせ自分が彼を護衛にする目的自体がそれだから、あえて今掘り下げる必要がないから。


「それでは正式登録と活動は決められた登録期間以降でしょうね?」


「期間内に登録を完了した瞬間から有効です」


「いいですわ。既に決めた事案ですので、期間が始まり次第すぐ登録を……」


 パメラは意思を開陳し、アレクシスはそれを受け入れる。すでに事前に議論が終わった事案であるため、これといった雑音はなかった。


 二人の間では。


「ちょーっと待ってよおおおぉぉぉぉ!」


 しかし、突然割り込む第三者はいた。


 パメラが振り向くと、二人の方に走ってくる少年が見えた。身長と体格はアレクと似ていて丈夫で、夜のように暗い黒髪黒眼がそれなりに印象的だった。


 少年は二人の前に立ち、アレクシスを激しく睨んだ。


「アレク、テメェ! 興味がねぇふりをしてたくせに、こんな風に先手を打つもんあるかよ!」


「急に何だ、ロナン」


「急にってオレのセリフだこらぁ! 護衛実習そのものに関心がねぇふりをしてただろ!? 急に姫様を狙うのかよ!」


 少年はアレクシスの肩を両手でつかんで激しく振った。アレクシスは退屈な顔をして彼のやるまま揺れた。


「野郎、この兄貴が姫様の護衛の座を狙ってたこと知っただろうが……!」


「そんな話聞いた覚えがないんだぞ? そして誰が兄貴かよ。俺より誕生日も遅い奴が」


「友達だろうが! 少なくとも言質は与え!」


「じゃあ友達の忠告って奴をあげよう。皇女殿下の前だ、不敬罪で捕まる前に落ち着け」


「はっ!! そうだった!!」


 少年はパメラに身を向け、腰を深く下げた。光のように早い態勢転換だった。


「はじめまして! アルトナイス帝国学園中等部、騎士科三年生のロナン・ハロフ・デリメスっす!」


「第一皇女パメラ・ハリス・アルトヴィアです。お会いできて嬉しいですわ。それにしてもデリメスって、あのデリメス子爵家の……?」


「あ、はい。そうっす。家の商会は兄弟姉妹が引き受けるんっすけど」


 パメラは少し驚いた。


 デリメス子爵家は貴族としての爵位は低いが、その名をかけて作ったデリメス商会はアルトヴィア最大の商業集団だ。帝国経済の五割を牛耳るという話まであるほどで、優れた商業手段を持つことで有名だ。そんな家柄だから、騎士志望者を輩出したという話は初めて聞いた。


 ロナンはパメラの表情から考えを推測したかのように苦笑いした。


「父上も兄弟姉妹も家の異端児と呼ばれたんっすけど、認められました。オレ一人なんざ他の道に行っても商会が揺れることもねぇし」


「なるほど。自分の道を歩むことは誰にとっても重要な権利ですの。応援しますわ」


「くぅ……! 優しい姫様って噂が事実っす!」


「あら、お褒めの言葉ありがとう。それにしても私の護衛の座を狙っていたってことは?」


「あっ、そうっす。パメラ第一皇女殿下! オレを護衛にしてください!!」


 その瞬間、アレクシスはロナンの頭を殴った。


「話と仕事には順序って奴があるものだ、タワケ」


「野郎が! 何を殴ってやがる!」


 ロナンはアレクシスに飛び込もうとしたが、パメラが隣で笑い声を上げると再び彼女を見た。


「情熱的なアプローチは嬉しいですわ。けれど私はすでにアレクシスさんと約束をしましたの」


「それをなんとか! そりゃ学年首席のこいつに比べると足りねぇかもしれませんけど!」


「あら、アレクシスさんが学年首席だったんですの? それは初耳でしたわ」


「え? じゃあどうしてアレクを……はっ!?」


 ロナンはアレクシスを振り返った。なぜか血の涙を流すような形だった。


「このカサノバ野郎、そのハンサムな顔で姫様を誘ったってやつか!」


「今日はいつもよりうるさくて面倒だな。そして本当のカサノバにそんなこと言われたくないぞ」


「オレの周りの女の子たちは皆ただの友情だぞ……!!」


 アレクシスはため息をついた。しかしすぐに考え込んだような顔になり、しばらくすると何か理解したように小さく頷いた。


 アレクシスはパメラを見て口を開いた。


「自分の代わりにこいつはどうですか? こう見えても学年次席です。実力的には申し分ないです」


「こう見えてもって一言多ぇよ!」


 パメラはため息をついた。アレクシスの提案そのものではなく、その提案に込められた真意を察したためだった。


「どうせ断ることを知りながらそんな提案をするなんて、貴方も悪趣味なんですわね」


―――――


リメイク前後の差が激しい最初のキャラ、ロナンです。

事実上名前だけ同じ別のキャラになり、リメイク以前を覚えている御方なら苦笑いするかもしれませんね。

もちろんリメイク前の様子が分からなくても、読破に何の問題もありませんのでご安心ください。


読んでくださってありがとうございます!

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