初登校日

 整頓された髪と身なり。きらめく瞳と自信のある表情。あふれる気品と優雅さ。


 新入生としての初登校日、パメラは皇居の自分の部屋で自分の姿を点検しながら満足そうに笑った。


「どう?」


「完璧です! 姫様はいつも完璧ですけど!」


「姫様はいつも美しいです。ですが、他の人に侮られないようにいつもお気をつけください」


 無条件の肯定を送る幼いメイドのエラと、彼女より数年上でいつも注意を払うメイドのベス。パメラが直接選んで傍に置いている二人だ。


「いつもありがとう」


「やるべきことをしただけです」


「今日は大事な日なんですから特に気合を入れないと!」


「エラ。そんな観点なら入学式の時はすべての新入生の前で演説をしたんだけれど? あ、もちろんその日も貴方たちにしてもらった身だしなみは最高だったわ」


 ベスは興奮して何か言おうとするエラの口をそっと塞ぎ、微笑んだ。


「あの時はほとんどが遠い所から眺めただけです。近くで長い間一緒に切磋琢磨する人たちに向き合うのは場合が違いますよ。もちろん殿下はいつも完璧ですが」


「私が完璧になれるのは貴方たちがいつも面倒を見てくれるおかげよ。ありがとう」


「ありがとうございます。……ありがたいお言葉ですが、あまりのんびりしていらっしゃれば遅刻になると思いますよ」


「あら、そうね。行ってくるわ」


 パメラは笑いながら指パッチンをした。瞬く間に描かれた魔法陣が彼女の体を包んだ直後、彼女の姿が跡形もなく消えた。


「……ベスお姉ちゃん。空間転移はすっっっごく高い魔法サービスでしたよね?」


「姫様が自覚なくとんでもない魔法を使ったのは一日や二日のことじゃないじゃない」


「適性が『万能』だと分かっていたら理解はできますけど」


 残されたメイドたちがそんな話をしていたことを、もちろんパメラは知らない。




 ***




 アルトナイス帝国学園は由緒ある名門らしく、敷地と建物もかなり巨大だ。それに相応しく生徒数も多く、特に通学時間の人波は相当である。


 そのような場所の真ん中、人が最も多く通る正門の真ん中に突然瞬間移動で現れる人がいれば当然目につく。


「えっ!? 今のあれ、〈転移〉魔法……?」


「また誰かが無駄にお金の自慢を……ちょっと待って、あの髪色はまさか?」


 突然現れたパメラに生徒たちの耳目が集まった。しかし、いざ目立つ方式で登場したパメラは周りの空気に気づかないまま微笑んで周辺の人々に挨拶した。


 その時、見慣れた顔が彼女の目についた。


「まさか登校初日からこんなに目立って行動されるとは思いませんでした」


 アレクシスだった。彼は呆れながらパメラに近づいた。


 真っ白なブレザーはパメラのものと同じだが、シャツとズボンはパメラの赤色と違って濃い藍色だった。アルトナイス帝国学園のいくつかの学科の中でも騎士科の象徴である制服だ。


 二人が並んで歩く中、多くの視線が青くて赤い美男美女に注がれた。


「アレクシス先輩だよ! 相変わらずかっこいい……!」


「姫様に何の用事だろうかな? ……あっ!? まさか!」


 なぜか周りが、特に女子生徒たちがうるさかった。しかしアレクシスは眉間にしわを寄せながら不満を示すだけで、その理由を知っているような様子ではなかった。あるいはわざと無視していたり。


 アレクシスの方が先に口を開いた。


「外野がうるさいですね。話は秘密裏に……と言いたいのですが、どうせ噂が広がりますからどこでも構いません」


「どういう意味でしょうか?」


「こちらの事情です。とりあえず入りましょう。ゆっくり動けば遅刻します」


 二人は並んで歩いた。その姿に再び女子生徒たちが歓声を上げたが、アレクシスはそれをきれいに無視した。


「アレクシス、あの生徒たちの反応は何ですの?」


「自分が騎士科の長期実習パートナーに誰を選ぶか気になっているのです。些細なことに関心が高いようです」


「へえ。それは貴方がモテるからじゃないでしょうか?」


 パメラはあたりを見回してニヤニヤした。アレクシスを眺める女子生徒たちの視線は明らかに熱かった。社交界で令嬢たちが魅力的な紳士を前に顔を赤らめたり、仲の良い婚約者と一緒に優しく笑うのを数えきれないほど見てきたパメラにとって、初々しい生徒たちの露骨な態度は笑いが出るほど分かりやすかった。


 しかし、アレクシスの表情は冷たかった。


「わかりません。興味もありません。モテるなんかわかりませんが、余計に自分を煩わせないでほしいです」


「わあ。本当に友達がいないような返事ですわ」


 パメラは苦笑いした。アレクシスの態度のためではなく、女子生徒たちの態度に変わりがなかったからだ。むしろ近くでアレクの発言を聞いた女子生徒たちは、さらに大きな歓声を上げるだけだった。


 あんな冷たい態度のどこがいいのかしら――パメラは率直にそう思ったが、あえて口には出さなかった。


「殿下。それはどうなさいますか?」


「それって?」


「護衛のことです。この前おっしゃったその」


「ああ、それのことですわね。私の意思は変わりません。……この光景を見ると少し罪悪感があるんですけれども」


「罪悪感? なぜですか?」


「貴方のパートナーになることを願う令嬢が多そうですもの。先手を打ってチャンスを奪ってしまったようですわ」


 パメラはそれなりに本気だったが、アレクシスは大したことないかのように鼻を鳴らした。


「そんなことはよくあります。成績の良いパートナーを確保することは自分の成績にも影響がありますから。むしろ正当に競争する方が珍しいです」


「貴方を狙う少女たちはそんな目的じゃないようですけど……まぁ、説明する義理はないですわね。とにかく貴方も大丈夫でしょう? もし他の人に変えたくなったとか……」


 パメラは少し不安になって尋ねた。


 しかしアレクシスは眉をひそめた。パメラと話しながらもずっと正面だけを眺めていた視線が初めて彼女を見た。


「不満がないわけではありませんが、もう約束したので従うつもりです。自分は約束に反しません」


〝私は決して約束を壊しません〟


 アレクシスの言葉が一瞬、他の誰かの言葉と重なって聞こえた。


 パメラが軽い頭痛を感じ、額に手を当てた瞬間、アレクシスは眉をひそめて再び正面に視線を戻した。


―――――


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